-【Dr.久住対談】ホワイトハンズ代表・坂爪真吾さん(後編)~何を良しとし、信じるか。最適解をあきらめない。-

2019.05.13

新しい「性の公共」をめざす坂爪さんとの対談、最終回。独特の歪みを持った日本の「性」問題、突破口は「Vチューバ―」と「サイレント・マジョリティ」?

 

 

【まとめ】

 

☆「アンメット・メディカル・ニーズ」に応えたい――ナビタスクリニックがアフターピルのオンライン診療・処方に乗り出したきっかけとは?

 

☆ヴァーチャル化など性の内向化で、日本の性教育の遅れは悪化する?? エンターテイメントと正しい性知識を融合させた「Vチューバ―」に注目!

 

☆ 性の問題は、信仰に似ている。何を良しとし、何を信じるか、翻意は困難。周りのサイレント・マジョリティーに感じてもらうことから始めよう。

 

 

 

※前編「社会的な切り口から、新しい『性の公共』をつくりたい。」はこちら

※中編「風俗は『最後のセーフティーネット』。私が見方を大きく変えた理由」はこちら

 

 

 

中絶の文化は世界でも様々。独特の歪みを持った日本の現状に風穴をあけたい!

 

 

坂爪 つい先日、アフターピル(緊急避妊薬)に関してオンライン診療解禁といった報道がありましたが、久住先生は昨年9月にオンライン診療をいち早く始められました。市販化も推進していますよね。

 

久住先生はそもそもなぜ、そのあたりの問題に着手されたのですか?

 

 

久住 ずばり「アンメット・メディカル・ニーズ」に応えるためです。

 

 

坂爪 アンメット・メディカル・ニーズとは?

 

 

久住 直訳すれば、「満たされていない医療ニーズ」ですね。医者以外の職種で、特に男性がアフターピルのことを言い出すと、日本社会ではまだまだ色眼鏡で見られますよね。でも求めている人はすごく多く、他方、プロバイダーはすごく少ない

 

ナビタスクリニックはもともと女性内科があり、ピルも以前から扱っています。女性の健康維持・向上にも焦点を当ててきたので、アフターピルも需要があるなら当然に扱うべきと考えました。

 

 

 

 

坂爪 まさに“コンビニ”クリニックですね。

 

 

久住 さらに、私自身、医療を取り巻く文化にも元々興味がありました。その中で、中絶に関する文化や見解は、世界各地で大きく異なることを知りました。

 

きっかけは2015年、ブラジルでジカ熱が流行したことです。妊婦さんが感染すると胎児が脳にダメージを受け、一生涯、身体に障害を背負うことになります。ちょっと考えれば、中絶するのが現実的な選択に見えます。ブラジルは経済的にも安定していない層が多く、福祉も徹底していませんから。重度の障害児を育てていくのは、日本以上に極めて困難な人が多いのです。

 

 

坂爪 口で言うほど簡単ではないですし、きれいごとでは通りませんね。

 

 

久住 そうなんです。ところが、ブラジルはカトリックなんですね。カトリックでは基本的に中絶が禁止されているんです。さらに当時、やはりカトリック国であるエルサルバドルで、10歳の少女が継父にレイプされて妊娠したものの、政府が中絶を認めなかったことが世界的に報じられました。

 

 

 

 

低年齢での出産は母体にも非常に危険です。実際、2018年には同じくカトリック国のパラグアイで性的暴行を受けて妊娠した14歳の少女が、出産中に亡くなっています。

 

 

坂爪 日本はわりと性には寛容ということでしょうか?

 

 

久住 カトリックを思えばそうですね。ただ、日本では中絶が認められているとは言っても、いまだに「掻爬(そうは)法」あるいは「吸引法」という術式が取られています。前者は胎児を器具で文字通り「掻き出す」んです。海外では今では薬による中絶が普通。先進国でまだソウハ法をやっているのは日本くらいです。

 

 

坂爪 日本では中絶薬は普及しないのでしょうか?

 

 

久住 手術していたものが薬で済んでしまえば、中絶料金は大幅下落ですからね。出産可能年齢人口が減っているとはいえ、今も中絶は大きな“市場”です。厳密には、流行っている産婦人科は中絶よりお産がメインなので、そういったことは気にしないでしょうが。(苦笑)

 

 

坂爪 中絶しようと思えばできなくはないけれど、心理的にも費用的にも、また社会的にも手軽な選択ではない。中絶薬もアフターピルも、似たような状況に見えますね。

 

 

 

 

 

アフターピルは、海外ではガソリンスタンドでも買えるのに、日本では産婦人科を受診して高額の費用を支払わないと入手できない入手ハードルが高いまま、普及していない、と。

 

 

久住 そう。性に関しては、医療の分野でさえ日本は独特の歪みを持った国なんですね。そこに風穴を開けたいと思い、アフターピルの普及活動に乗り出したんです。

 

 

 

 

学校の性教育はこれからも期待薄・・・。エンタメと融合させたVチューバ―に光。

 

 

坂爪 私は一応、著書『未来のセックス年表2019-2050』の中で、アフターピルの市販化を2028年と予想させていただきました。性教育が不十分であることが市販化反対の一つの材料とされていていて、次回の学習指導要領改訂が2028年ということに基づいています。

 

 

久住 本当は、性教育が不十分だからこそ、なおさらアフターピルが必要な場面が出てくるんだと思いますが。(苦笑)

 

性の内向化前編参照)が進むと、ますます正しい性知識に触れる機会が保障できなくなりそうです。学校の性教育はこの先も期待できそうにないですからね。

 

 

坂爪 指導要領を改訂してもだめですか。

 

 

久住 指導要領に「性交」「避妊」といった言葉が書かれたからと言って、急に先生がうまく教えられるとも思えません。養護教諭が全て受け持つというのはマンパワー的にも無理でしょう。

 

性教育の突破口はないものでしょうか?

 

 

坂爪 私は、Vチューバ―(バーチャルYouTuber)に希望があると思っています。実際に、「バーチャル花魁 由宇霧」と名乗るVチューバ―の女性が、エンターテイメントと正しい性知識を融合させたチャンネルを持っています。

※YouTuberとして動画配信・投稿を行うコンピュータグラフィックスのキャラクター

 

 

 

 

久住 なるほど。いかにも「教育的」に、一方的に話をしたところで、たいして関心を持ってもらえませんからね。ただ面白がるだけで、まともに聞かない人のほうが多い。エンタメ要素は大事ですね。

 

 

坂爪 あとは、AIを使ったチャットボットを性教育に導入するのもよさそうです。

 

 

久住 たしかに、中学校を訪問してがん教育を行う「いのちの授業」でも、子供たちから出てくる質問はある程度パターン化できるんです。

 

 

 

 

坂爪 チャット形式なら一方通行にならず、自分の関心のあることが相談できます。対面でないし、対人でもないので、躊躇する理由もありません。

 

性については特に、家や学校でオープンに話せる土壌がないですからね。ホワイトハンズでは、性に関して真面目に話せる場の提供や、議論できるイベントの開催なども行っています。学生さんから大学教員、風俗業界関係者、ソーシャルワーカーや弁護士などの専門職も参加されます。

 

 

久住 そういう場は必要ですね。性のニーズや問題は多様で、10人いれば10人、やり方や好み、悩みが違います。でも、それをおおっぴらに語る文化ではないうかつに話せばセクハラと言われてしまいますから。(苦笑)

 

 

短絡的な感情論はなくならない。サイレントマジョリティーに感じてもらおう。

 

 

坂爪 2028年に性教育の遅れが取り戻せているか、怪しくなりましたね。となると久住先生は実際、アフターピルの市販化の時期をどう見ていますか?

 

 

久住 正直なところ、日本では市販化は非常に困難かもしれません。

 

 

坂爪 え、そうなんですか。

 

 

久住 何しろ、いまだに中絶も掻爬法の国ですからね。細菌性髄膜炎に対するヒブワクチンの導入が、他の先進国と比べて20年遅れでした。たぶんその調子で、アフターピルの市販化も世界のスタンダードから20年くらいは遅れるんでしょう。

 

 

 

 

坂爪 世の中の議論も、アフターピルや性教育に関しては、短絡的な感情論が目立ちます。論理性とか合理性とか理詰めで主張してもかなわない。感情に訴えるとか、ストーリー仕立ての方が、分かりやすくて受入れられやすいんでしょうね。

 

 

久住 しかも結局、そういう過激な一派はいつの時代にもいなくならないものです。だったら、彼らをどうにかしようというのは止めて、むしろサイレントマジョリティー「なんとなくこっちの方が正しそうだな」と雰囲気を感じ取ってもらう方が近道だと思っています。

 

 

坂爪 確かにその方が現実的ですね。

 

 

久住 だって、例えばイスラム国(IS)の人たちに「おい、キリスト教もいいぞ」なんて言ったところで聞いてくれないですからね。(笑)

 

 

坂爪 性に関する問題も、宗教と同じですね。何を良しとし、信じるか。ある意味、生き方の問題でもある。

 

 

久住 今までの生き方を全否定されるとしたら、それは受け入れらなないでしょうね。いわばサンクコスト(回収不能費用)が積もり積もってしまっているわけで。

 

 

坂爪 今さら変えられない。だったら、そこはひとまず置いておいて、周りから変えていく方が確実です。

 

 

久住 そう。諦めるわけじゃない建前でなく、実際に起きていることに対し、どう解決策を提示していけるか。ホワイトでもブラックでもなく、グレーの部分にどう最適解を与えるのか。いずれにしても、現に困っている人や問題を、大義名分を盾に切り捨てるようなことがあってはならないと思っています。

 

【完】

 

 

坂爪真吾(さかづめ・しんご)

一般社団法人ホワイトハンズ代表。1981年10月21日新潟市生まれ。東京大学文学部卒。2008年、「障害者の性」問題を解決するための非営利組織・ホワイトハンズを設立。新しい「性の公共」を作る、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。

 

 

久住英二(くすみ・えいじ)

ナビタスクリニック立川・川崎・新宿理事長。内科医、血液内科医、旅行医学、予防接種。新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員を経て2008年、JR東日本立川駅にナビタスクリニック立川を開業。好評を博し、川崎駅、新宿駅にも展開。医療の問題点を最前線で感じ、情報発信している。医療ガバナンス学会理事、医療法人社団鉄医会理事長内科医、血液専門医、Certificate in Travel Health、International Society of Travel Medicine。

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