-【Dr.久住対談】ホワイトハンズ代表・坂爪真吾さん(中編)~風俗は「最後のセーフティーネット」。私が見方を大きく変えた理由。-

2019.05.10

引き続き、新しい「性の公共」創生をめざす坂爪さんとの対談。デリヘルが地域経済を支えている現実と、風俗と福祉の連携について語ります。

 

 

【まとめ】

 

☆女性の貧困が見えにくいのは、受け皿としての風俗があるから。デリヘルが地方経済・雇用を支える一方で、母から子へと貧困の連鎖を生んでもいる。

 

☆風俗が男女間の経済格差を埋めている現実。ただ、風俗で働くことを選んでいる理由は、経済事情だけとは限らない。家族や夫婦の共依存の実態も。

 

☆風俗業界にも変化の兆し――「福祉に限りなく近い風俗」の現場とは? 自助でも公助でもない、「共助」を実現している。

 

※前編「社会的な切り口から、新しい『性の公共』をつくりたい。」はこちら

 

 

 

見えにくい女性の貧困。デリヘルが雇用を支え、男女間格差を埋めている。

 

 

久住 3月にご出版された『未来のセックス年表 2019-2050年』、非常に面白く読ませていただきました。

 

 

坂爪 ありがとうございます。

 

 

ホワイトハンズ

 

 

久住  特に、日本の地方都市では、デリヘルが一部の女性の雇用と経済を支えている、という話は興味深かったですね。

 

 

坂爪 ええ。性風俗に従事する女性は全国で30~40万人はいると見られます。特にデリヘルは短時間で高収入を得られる可能性もある仕事です。子供の面倒を見ながら平穏に暮らしたいシングルマザーの経済的・精神的な安定に貢献している側面もあります。

 

ただし、デリヘルが成り立つ人口規模は約8万人と考えられています。私の住んでいる新潟県で言えば、新潟市(約80万人)や上越市(約19万人)、三条市(約9万人)といったあたりにはデリヘルが存在しますが、それ以下の市にはありません。求人や集客が成り立たないんでしょうね。

 

ですから、デリヘルに出勤するために周辺の地域から引っ越しをした女性や、1時間かけてデリヘルのある地域へ通勤している女性もいます。

 

 

久住 この間、ナビタスクリニックを受診した女性も京都からの出稼ぎということでした。かえって地元から遠い場所でやりたい、という人もいますよね。

 

 

坂爪 身元がバレないようにしたい、と言う人は多いです。ただ、そもそも国内人口は減少傾向で、人口8万人以上の都市は県庁所在地のみ、という県が増えていくでしょう。通勤に時間がかかれば交通費もかさんでしまいますので、失業するデリヘル嬢も増えると見られます。

 

 

 

 

久住 地方は若い子たちの仕事が本当にないらしいですからね。特に沖縄では、そのために風俗に流れる女性が多いと聞きました。

 

一昨日ふらっと受診された女性もそうです。「お仕事何やってるの?」と聞くと、「風俗やってます」と言うので、「へえ、そうなんだ。風俗でも色々あるよね、何やってるの?」とさらに聞くと、「ソープで働いてます。ただ、東京に自分探しに来たんですけど、結局見つからないことが分かったので、沖縄に帰ろうと思うんですよね」と言うんです。

 

結局また帰って風俗を続ける、と。本人たちにとって望ましい職業かどうかは分からないけれど、拠り所ではあるんですね。

 

 

坂爪 男性の貧困は路上に現れると言われ、ホームレスの9割は男性です。一方で、女性の貧困は見えにくい受け皿としての風俗があるからです。

 

しかしその結果、母親から子供へと貧困の連鎖が起きる。風俗で働く女性の中には、お母さんも風俗やっていたから、という人が少なくない。風俗や水商売以外に、女性が稼げる仕事は地方ではかなり少ないのが現実です。

 

 

なぜ風俗で働くのか? 経済的理由の裏に、共依存の実態も・・・。

 

 

久住 世界の歴史を見れば、娼婦は最古の職業の1つでもあるんですね。

 

 

世界新聞

 

 

坂爪 医者と軍隊、そして娼婦、ですね。

 

 

久住 娼婦は、「子孫をたくさん残したい」という動物の本能から生じる欲求を満たす職業ですからね。一夫一妻制なんて、ヒトの本能とは無関係です。日本でも、一夫一婦制はキリスト教の概念が持ち込まれて以降のもので、伊藤博文や勝海舟にだってたくさん女性がいました。

 

インドネシアはイスラム教で不貞には厳しい国ですが、かえって職業や商売としての性風俗は発達してるらしいですよ。アラブはそもそも一夫多妻制で、ある種、社会保障制度の側面まである。友達が亡くなってしまった、じゃあその奥さんを引き取って面倒みてやろう、みたいなね。

 

 

 

 

坂爪 もはや社会を支えるシステムなんですね。私も、風俗には否定的ではないんです。先の通り、良くも悪くも現実的に男女間の経済格差を埋めているものでもありますから。

 

 

久住 ただ、前向きな選択の結果として風俗を選んでいる方はいいのですが、色々な事情を抱えている女性も多そうですよね。

 

先日ナビタスクリニック新宿を受診したデリヘル勤務の女性は、日中と夜と掛け持つハードワーク。睡眠時間は毎日2~3時間で、いつも体調が優れないそうです。話を聞くと、お母さんがギャンブルで借金を1000万円作ってしまい、自分が働いて返さねばならない、と言うのです。下の兄弟3人の学費も自分が稼がないといけないんです、と。

 

 

坂爪 風俗勤務の方にはよくあるケースかもしれないですね。

 

 

久住 でも、本当は風俗以外に、もっと合理的な選択もあるはずですよね。親の借金は自己破産してもらえばなくなりますし、下の子たちだって奨学金などの制度もある。そういう話もしたんですが、その選択をしない何かがある。

 

聞いているとどうやら、デリヘルで働いてでも親の借金を返したり、下の子たちの面倒を見たり、というのが、自分の生き甲斐になってしまっているようなんです。

 

 

坂爪 共依存に陥ってますね。

 

 

 

 

久住 ええ、まさに。アル中と同じです。一人では続かないんです。実はそれを支えてしまっている人がいる。よくあるのが、「馬鹿野郎、酒を買う金出せ」と暴力を振るわれ、虐げられながらも、結局お酒代を渡してしまう奥さん。本当は離婚すればいいんです。でも、「この人のそばにいてあげられるのは自分しかいない」と思い込んでしまう。そう思いたいんです。

 

 

坂爪 そのデリヘルで勤務している女性も、「そこまでして母や兄弟を支える自分」ということに生きる価値を見出してしまっている。風俗で働き続けるのは、経済的な問題もあるけれど、実はもっと根深い、家族の在り方や生き方の問題が深くかかわっているかもしれない、ということですね。

 

 

最後のセーフティーネット、自助でも公助でもない「共助」の場としての風俗。

 

 

坂爪 そういう様々な事情で、風俗から抜け出したくても抜け出せない、あるいは自分たちだけでは問題の本質に気づくことが難しい、という場合は、客観的なアドバイスをくれる相談相手が大事になってきます。

 

 

久住 ええ、ですから受診された風俗の女性たちに、坂爪さんの「風(ふう)テラス」を紹介しておきました。

 

 

坂爪 ありがとうございます。風テラスでは、風俗で働く人たちの生活・法律相談を無料で行っています。相談内容は借金、債務整理から税金問題、離婚、DV、ストーカー、誹謗中傷まで様々です。弁護士さんやソーシャルワーカーの方に協力していただいて、チームで相談に乗っています。

 

 

風テラス

 

 

通常の「法テラス」でも、借金問題などは一定条件の下に無料で相談できますが、やっぱり敷居が高いんですよね。特に風俗で働く女性は、職業をあまり人に言いたがらないことも多い。だから多重債務を抱えたまま誰にも相談できずにいたり、社会的弱者にもなりやすいんです。

 

 

久住 それに、性風俗で働く人たちは、ソーシャルネットワークも弱いんでしょうね。ブラックな経営の風俗店も多いでしょうし。

 

 

坂爪 そうですね。ただ、私も昔は風俗店を十把一絡げに見ていたんですが、業界内にも変化の風は吹き始めています。むしろ、福祉制度の不備を補う「最後のセーフティーネット」として機能しているお店もあるんですよ。

 

例えば、俗に「地雷専門店」と呼ばれる風俗店は、他店では不採用となるような条件の悪い女性でも、応募者は全員採用します。その分、お客さんの利用料は格安となっています。経済状態や心身の健康状態の悪い女性が集まりがちですが、お店が性感染症の検査を徹底し、メイクや髪形のアドバイスなども行います。

 

私も最初は懐疑的だったのですが、見学後には、「これは限りなく福祉に近いな」と認識が大きく変わりました。広告にもお金をかけているので行政の情報よりも多くの人にリーチし、応募者全員採用なので支援が必要な人をもれなく捕捉できます。行政や福祉と連携すれば、彼女たちを公的支援につなげられるのではないか、とも。

 

 

ホワイトハンズ

 

 

久住 風俗店側が健康管理を徹底したりするのは、経営的な判断でもありますよね?

 

 

坂爪 それはあると思います。要するに風俗業界も人手不足なんですね。だから、搾取一辺倒のブラックなやり方ばかりではいられない。実際、風俗店からの依頼で、お店の待機所で風テラスの相談会も開催しています。

 

今の日本は、自助=自己責任が強調される反面、公助=行政による支援は不十分です。自助は苦痛と孤独、社会的孤立を生みます。公助、すなわち福祉は、社会的には恥とされ、スティグマを生みます。

 

それに対し風俗は、共に支えあい助け合う場、コミュニティを形成し、期限付きではあるものの、ある種の「共助」を実現しているんです。

 

【後編につづく】

 

 

坂爪真吾(さかづめ・しんご)

一般社団法人ホワイトハンズ代表。1981年10月21日新潟市生まれ。東京大学文学部卒。2008年、「障害者の性」問題を解決するための非営利組織・ホワイトハンズを設立。新しい「性の公共」を作る、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。

 

 

久住英二(くすみ・えいじ)

ナビタスクリニック立川・川崎・新宿理事長。内科医、血液内科医、旅行医学、予防接種。新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員を経て2008年、JR東日本立川駅にナビタスクリニック立川を開業。好評を博し、川崎駅、新宿駅にも展開。医療の問題点を最前線で感じ、情報発信している。医療ガバナンス学会理事、医療法人社団鉄医会理事長内科医、血液専門医、Certificate in Travel Health、International Society of Travel Medicine。

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