-【Dr.久住対談】ホワイトハンズ代表・坂爪真吾さん(前編)~社会的な切り口から、新しい「性の公共」をつくりたい。-

2019.05.09

障がい者の性や風俗店で働く女性の問題解決にあたってきた坂爪さん。身体的欲求としての性の向こうに見える本質とは?

 

 

【まとめ】

 

性の問題を社会的な立場から言語化し、新しい「性の公共」をつくることをめざし、ホワイトハンズを立ち上げた坂爪さん。

 

☆障がい者の射精介助を通じて得た理解--性的欲求は単に身体的な満足だけを求めるものでなく、自尊心やアイデンティティに関わるもの。

 

☆VRなどの発達で性的欲求の発散手段は2極化? それでも人は「関係性」「自己の確認」を求めて風俗へ行く。

 

※中編「風俗は『最後のセーフティーネット』。私が見方を大きく変えた理由」はこちら

 

 

新しい「性の公共」を目指して――風俗と福祉は生き別れた双子。

 

 

久住 坂爪さんとの出会いは、ピルコンのチャットボット(「ピルコンにんしんカモ相談」のお披露目会でしたね。私はピルコン代表の染矢明日香さんとも一緒にアフターピルの普及活動をしていますので。

 

 

坂爪 そうでしたね。僕も染矢さんとは4年くらい前からのお付き合いで、そのチャットボットのお披露目会の際にはちょうど『未来のセックス年表 2019-2050年 』を執筆中だったんです。それで何かお話が聞けないかと参加したところ、久住先生と意気投合したんですよね。

 

 

 

 

久住 聞けば坂爪さんは、『誰も教えてくれない 大人の性の作法(メソッド)』『パパ活の社会学 援助交際、愛人契約と何が違う?』といった本を次々と出されていて。なかなかいい感じの攻め具合だなあ、話が合うんじゃないかな、と。(笑)

 

坂爪さんは元々、どういった経緯で性や性風俗に関する問題に取り組み始めたのでしょうか?

 

 

坂爪 きっかけは東京大学在籍中に参加した社会学のゼミでのフィールドワークでした。池袋や新宿、渋谷で性風俗店を回ってインタビューなどをしました。その際に、「性というのは食や睡眠と並ぶ人間の根源的な欲求にも関わらず、なかなか表舞台に出てこない社会的な支援や制度、サービスがすごく少なくて、あるのは基本的にエロ・娯楽ばかりだな」と気づいたんです。

 

 

 

 

風俗が悪いというわけでは決してないんです。ただ、もう少し社会的あるいは公的なサービスがあってもいいのかなと。じゃあ、自分が事業として作っていけばいいんじゃないかな、と思ったのがきっかけです。

 

 

久住 そこで、非営利組織「ホワイトハンズ」を設立されたんですね。

 

 

坂爪 はい。就活もせず、大学卒業から3年後の2008年、独学でいきなり立ち上げてしまいました。(笑)もうかれこれ10年以上になりますね。

 

ホワイトハンズは、性風俗を取り巻く様々な問題を社会的な立場から言語化し、新しい「性の公共」をつくることを目指しています。

 

つまり、①性の問題を個人(私)だけでなく社会みんなの問題と考え、②公の場で、社会みんなの力で解決を図ろう、という活動です。

 

 

久住 一般的には性とは究極的にプライベートなもの、「私」であり「公」と対極にあるもの、という認識です。「性の公共」というのは新しいですね。

 

 

坂爪 私は、風俗には福祉と同じ要素がある、もっと言えば、両者は“生き別れた双子”だと思っています。どちらも、社会からこぼれ落ちそうになっている人を包み込む、包摂機能を持っている。福祉が昼の世界の包摂なら、風俗は夜の世界の包摂「社会的排除」が共通の敵です。

 

 

 

 

ですから両者が手を携えることで社会的包摂が完成する。そこを目指しています。

 

 

障がい者の射精介助に見る、性的欲求とアイデンティティの関係。

 

 

久住 最初に取り組まれたのが、障がい者の方の性の問題解決だそうですね。

 

 

坂爪 はい。障がいのある方の多くは、性の世界から疎外された状態にあります。そこで、身体の不自由な男性重度身体障がい者の方への性的支援を続けてきました。

 

 

 

 

射精介助(障がいにより自慰行為の困難な方を対象に、ケアスタッフの手による物理的刺激で射精に導くサービス)は、東京と京阪神エリアで、もう11年目に入りました。

 

6~7割は脳性麻痺の方からの依頼です。彼らの場合、身体的には不自由ですが、コミュニケーションや意思疎通に問題はありません。自分で依頼できる、というのが大きいのではないでしょうか。珍しいケースではALSの方の奥様から、普段介護で疲れてしまっているのでお願いしたい、という依頼もありました。

 

 

久住 射精介助サービスを提供するケアスタッフの方たちのバックグラウンドはどのようなものなのでしょうか?

 

 

坂爪 基本的には看護師や介護士の方々ですね。医療や福祉の現場で障がい者の性の問題にぶつかった経験がある方や、お子さんが障がいを持っていて将来どう対応すべきか悩まれていた方など、何かしら個人的な体験がきっかけになっていることが多いようです。現在、全国で6人程度が、兼業でケアスタッフとして活動されています。

 

 

久住 利用者の方はどこから情報を得て問い合せされるんでしょう?

 

 

坂爪 メディア経由ですとか、取材された番組のyoutube動画(こちらを見て連絡をくださる方が多いですね。あとは口コミや、ヘルパーさんに聞いたと言う人もいます。

 

 

久住 女性からのニーズはないのですか?

 

 

坂爪 女性の場合、ニーズはあるかもしれませんが、なかなか表に上がってこないですね。サービスを提供する側も、どこをゴールとして何をどこまで提供したらいいか、難しい部分もあります。男性の場合は射精すれば終わりですが。

 

 

久住 それにしても運営が成り立っているというのは、すごいです。

 

 

坂爪 非営利なので儲かるわけではないですが、恒常的なニーズは感じています月に1回程度依頼される方が多いですね。

 

活動を通じて分かったことは、性の問題に関しては、身体的な欲求以上にメンタル面での要求が大きいと言うことです。射精は快楽だけでなく、自尊感情や、自分が男性であるというアイデンティティにもつながっているんですね。

 

 

 

 

久住 たかが射精、されど射精。性の問題は、茶化されたり敬遠されたりしがちですが、悩んでいる本人にとっては人格にまで関わってくる。奥が深いですね。社会がタブー視せず、オープンに議論をしなければいけないテーマも多そうです。

 

 

ヴァーチャル技術の進化と若者の低所得が、性を内向化させていく。

 

 

先日も、東大大学院の渋谷健司先生の研究室から、日本の30代男性の性交経験率の低さを示す調査が報告されました。

 

 

東京新聞

 

 

障がいを持っていなくても、日本の多くの若者が異性との健全な性的関係を持つことに困難を感じているように見えます。

 

 

坂爪 低収入と関係があるそうですね。今の若い人は、お金がないと言われています。アニメや動画など2次元相手に低コストで済ませている人も多いかもしれません。

 

 

久住 女の子を口説いて、食事して、プレゼントして……なんてやっているお金も時間もないんですね。それを考えたら、2次元で物足りなければ、風俗に行った方がずっと割安です。

 

 

坂爪 確かに風俗なら秘密も守られます。だから、風俗の利用客には警察・教師・自衛官が多いと言われています。

 

 

久住 そこへ来て、今後は風俗業界でもIT技術やヴァーチャル技術が進んでいく、と坂爪さんは『未来のセックス年表 2019-2050年 』で書かれていますね。

 

 

坂爪 ええ。家でも端末とネット環境さえあれば、仮想空間の中で好みの相手と会って性交渉しているような感覚が得られるようになるかもしれません。

 

 

久住 VRで好みの女の子に相手してもらいながら、手元の器具を使うことで、かなりの満足感を得られるようになるかもしれない、と。下手したら、その方が近場の風俗嬢よりいい、なんてことになりませんか。

 

 

 

坂爪 ええ、基本的に性は「内向化」していくでしょうね。将来は、性的欲求を発散するための手段は2極化すると見ています。お金がある人は生身の人間に会いに風俗に行き、そうでない若者や大多数はヴァーチャルに頼ることになる。

 

ただ、No.1風俗嬢の方って、決して美貌だけを売りにしているわけではないんですよ。風俗に行かれる方は、ただ快楽だけを求めていくわけではないと思うんです。もっと癒しだとか、誰かに会いに行くことに意味があるとか。

 

 

久住 女性のホスト通いに似ていますね。ホストにハマってしまう女性も、関係性や疑似恋愛を求めている。No.1ホストも、顔立ち華やかなNo.1イケメンとは限らないですから。

 

 

坂爪 性的欲求や性行為も、身体的に満たされればそれで全て足りるわけではないんでしょうね。他者との関係において、自己の存在を確かめたいのかもしれません。

 

中編につづく】

 

 

坂爪真吾(さかづめ・しんご)

一般社団法人ホワイトハンズ代表。1981年10月21日新潟市生まれ。東京大学文学部卒。2008年、「障害者の性」問題を解決するための非営利組織・ホワイトハンズを設立。新しい「性の公共」を作る、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。

 

 

久住英二(くすみ・えいじ)

ナビタスクリニック立川・川崎・新宿理事長。内科医、血液内科医、旅行医学、予防接種。新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員を経て2008年、JR東日本立川駅にナビタスクリニック立川を開業。好評を博し、川崎駅、新宿駅にも展開。医療の問題点を最前線で感じ、情報発信している。医療ガバナンス学会理事、医療法人社団鉄医会理事長内科医、血液専門医、Certificate in Travel Health、International Society of Travel Medicine。

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