オンライン診療の指針の見直し作業が進められています。しかし、アフターピルへのアクセスを低下させる改悪ともなりかねない状況です。
【まとめ】
☆「オンライン診療の適切な実施に関する指針」見直しの大きな論点が、アフターピル。例外を要件で規定するなど、ナンセンスな議論が見受けられます。
☆要件によっては、アフターピルの緊急性やプライバシーへの配慮に欠け、オンライン診療受診者にとってのメリットが損なわれます。
☆そもそもアフターピルは市販化(OTC化)すべきもの。オンライン診療やOTC化は誰のため?反対するのは誰の何のため?
アフターピルのオンライン診療・処方が、指針見直しの論点に。
4月24日、「第4回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」が厚生労働省で開催されました。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」は、2018年3月に策定されました。「安全性・必要性・有効性の観点から、医師、患者及び関係者が安心できる適切なオンライン診療の普及を推進するため」、というのが大義名分です。
さらに毎年、「オンライン診療の普及、技術革新等の状況を踏まえ、定期的に本指針の内容の見直しを行う必要がある」として、検討会が開かれることとなっているそうです。
同指針は当初から、オンライン診療を初診で行うことは原則認められないとしながらも、
患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある場合などにおいて、患者のために速やかにオンライン診療による診療を行う必要性が認められるときは、オンライン診療を行う必要性・有効性とそのリスクを踏まえた上で、医師の判断の下、初診であってもオンライン診療を行うことは許容され得る。
と、緊急時における「例外」を許容してきました。
今年度の検討会では、この「例外」として、アフターピル(緊急避妊薬)のオンライン診療・処方が認められるか、というのが重要な論点となっているようです。
「例外」をわざわざ議論するナンセンス。
4月24日の検討会では、厚労省から以下のような「指針に記載する要件案」が示されました。日本産婦人科医会・日本産科婦人科学会の意見を踏まえたもののようです。
1.緊急避妊薬をオンライン診療で処方する医師は、産婦人科専門医、あるいは事前に厚生労働省が指定する研修を受講することを必須とする。
2.オンライン診療で緊急避妊薬を処方する際は、緊急避妊薬内服後、避妊を失敗することや異所性妊娠の存在等も想定し、3週間後の産婦人科受診の約束を確実に行う。
3.緊急避妊薬が処方される場合は、1錠のみとし、処方後内服の確認をしなければならない。※調剤可能な薬局を示し、薬剤師の前で内服すること等、内服確認する方法を確立することが望ましい。
4.処方する医師は、医療機関のウェブサイト等で、緊急避妊薬に関する効能(避妊成功確率など)、その後の対応の在り方、オンライン診療の受診後に薬が配送されるまでに要する時間(オンライン診療で受診可能な時間)、転売や譲渡が禁止されていること等を明記すること等。
そもそも、「例外」に要件を設けること自体がナンセンスです。例外とは、一般の原則の適用を受けないこと。個別具体的に規定外の状況に対応するために認められるものです。そこに要件を設けるのは、例外の本旨に反します。
それでもあえてこの議論に乗っかるとしたら、4については特に異存はありません。一方、1~3は合理性を欠いています。
「産婦人科医か研修を受けた医師に限る」必然性の欠如。
まず、アフターピルをオンライン処方できるのは、産婦人科医か研修を受けた医師に限る、という要件について。
これについて検討会では、「緊急避妊薬は『妊娠していないこと』を確認してから処方する必要があるが、妊娠しているか否かの判断、緊急避妊薬の効果が出ているかの判断には、高度な産婦人科領域の専門知識が必要となる。妊娠している女性に緊急避妊薬を投与することは避けなければならない。研修を受講するのみで、そうした知識は得られないのではないか」との指摘が上がったとの報道があります。
しかし、妊娠中の女性がアフターピルを服用しても、胎児に影響が出る心配がないことは、理論上も明らかです。米国FDAも妊婦の服用に関する警告を数年前に取り下げていますし、ヨーロッパでの市販後調査でも問題は報告されていません。
アフターピルの安全性は世界的に確立されたものです。だからこそ、海外ではガソリンスタンドの簡易的な売店でも売られています。本来ならOTC(市販)化されて当然の薬なのです。(詳しくはこちら)
百歩譲って医師による処方が必要とした場合でも、家庭医や一般内科医も知識をつければ可能です。産婦人科に限定すれば、アクセスは大きく制限されます。学生や社会人が平日の日中に受診するのは困難。アフターピルの緊急性(海外でガソリンスタンドでも売られているのはそのためでもあります)に鑑みれば、アクセスのしやすさは重要です。
また、知識を付けるにあたって「研修」は必要性に乏しい。医学的な基礎知識をすでに有しているので、eラーニングで十分です。
「服用後3週間後の産婦人科受診」「薬剤師の前で服用」の無理くり。
避妊失敗等の確認のために「3週間後の産婦人科受診の約束を確実に行う」という要件については、検討会で、「約束では弱い」「制度として担保するのは難しい」と言った声が上がったようです。しかし、そもそもアフターピルを服用した全員が3週間後に産婦人科を受診する必要はありません。
妊娠していないかどうかは、市販の妊娠検査薬でチェックをするよう説明し、陽性だったら産婦人科医を紹介、受診するよう指導すれば十分です。
また、内服の確認のために、「調剤可能な薬局を示し、薬剤師の前で内服する」というのも、見当違いな心配をしているとしか思えません。
おそらく転売目的で処方を受けることを防止する意図なのでしょう。しかし、オンラインとはいえ“正規ルート”で入手する場合、受診費用と薬代を合わせて1万円以上の高額になります。すでに違法ネット販売が横行する中、闇ルートで格安品を求めるような人が、わざわざ正規品をさらに高額で欲しがるでしょうか?
それどころか、薬局での対面販売を必須とすることは、アフターピルの緊急性を無視するものです。承認薬の「ノルレボ」は性交渉後72時間以内に服用しなければならず、早ければ早いほど妊娠回避率も高まります。ところが郵送で処方箋が自宅に届くのはオンライン受診の翌日以降ですから、受け取った当日か翌日にすぐ指定の薬局に出向けなければ時間切れです。
また、プライバシーへの配慮も欠けています。オンライン処方と自宅への郵送がセットになっていれば、地元の人に知られることなくアフターピルを入手できます。ところが、薬局まで出向いて薬剤師の見ている前で服用するとなると、人によっては産科受診と似たような心理抵抗も生じますし、噂の火元になりかねません。
繰り返しますが、アフターピルは市販されるべきものです。
再三言ってきたことですが、アフターピルはOTC化されるべきものです。ナビタスクリニックでオンライン診療・処方に踏み切ったのは、あくまで次善策。現行の仕組みの中で、緊急性と必要性の要請に応えるための苦肉の策でもあります。
望まない妊娠を回避するのは、女性たちの自己決定権の範疇です。住んでいる地域や働き方など、アフターピルへのアクセスのしやすさによってその権利が損なわれているなら、むしろその障壁を取り除くべきです。
他方、アフターピルの入手ハードルを上げることは、望まない妊娠中絶を減らさないようにすることと同義です。それは誰のためでしょうか。誰が得をするのでしょうか。
性犯罪被害かもしれないから産婦人科医が事情を聴く必要がある、という理由も聞かれます。しかし、性犯罪かそうでないかは、診察してもまず分かりません。お酒を飲まされ酔わされ、上手く事に及んでしまえば、体に傷が残るわけでもなく、診察したところで犯罪性など分かりません。
アフターピルのOTC化に対する懸念として、「性の乱れにつながる」「性教育が遅れているから時期尚早」といったことも言われてきました。いずれも、問題の本質は別の所にあります。
むしろ、OTC化が進まないために、闇ルートが発達し続けている。アフターピルの入手ハードルを上げることで、違法取引をますます助長することになる。本末転倒の現実を直視すべきです。
アフターピルの入手ハードルを上げる意図とは?得するのは誰?
それを分かっていてなお、OTC化に反対するのであれば、そこには別の意図があると考えざるを得ません。
現在、国内の妊娠中絶件数は年間16万件超。さらに、表には出てこない「ヤミ中絶」(22週以降の中絶。母体保護のため法律で禁じられている)も密かに行われているようです。それでも中絶件数は減っています。妊娠可能年齢の、特に若い女性の人口が減っているからです。
アフターピルをOTC化すれば、中絶件数はさらに大幅減少するでしょう。それで困る人がいるかのようです。
同じ視点で改めてアフターピルのオンライン診療への要件を見ると、「3週間後に受診の約束をする」というのも、妊娠検査薬にお株を奪われないための方便にも聞こえます。
さらに「医師への研修を必須とする」ことで、研修を行う実施主体の利権が発生します。その研修では誰が指導にあたるのでしょうか。アフターピルのオンライン診療・処方の経験がある者が行うなら、まだ筋が通ります。オンライン診療プラットフォームを提供する会社が委託を受けて実施する、または、厚労省の診療経験を有しない医系技官が指導する、などというのは笑止千万です。
とはいえ、世の中の「指針」「ガイドライン」といったものに、法的拘束力はありません。守らないと誰かの正当な権利を不当に奪うことになる、というのなら、それは法律として規定されているはずです。罰則を伴うような法規とは、厳密に異なるのです。
指針やガイドラインに法的拘束力がないのは、当然のこと。人々の信託を受けた議会で議論されたり、直接民意を問うたりすることなく、いつのまにか選ばれた「有識者」と呼ばれる人々のさじ加減で決まってしまうものだからです。それほどの強制力は持ちえません。
もう一度原点に返って考えるべきでしょう。アフターピルのオンライン診療・処方やOTC化は、誰のためなのか。それを妨げようとするのは、誰の何のためなのか。世界を見渡せば、合理的かつ妥当な答えはすぐに見つかります。机上の空論を待たず、私は医師としての良心と使命に忠実に行動していきたいと考えています。
医療法人鉄医会ナビタスクリニック
理事長 久住英二