-【週刊現代コメント】『知ってはいけない薬のカラクリ』著者の谷本医師、新薬は「医師は自分では飲みたがりません」-

2019.04.15

ナビタスクリニック川崎の谷本医師は、著書やメディア、診療を通じ、薬に関する正しい認識を広めたいと考えています。

 

 

【まとめ】

 

☆処方薬にテレビCMがないのは、医師が製薬企業のお客さんだから。医師にあの手この手で営業をかけるのも、当然の理屈。

 

☆とはいえ日本人は薬を処方されるがまま? でも本来、「薬はリスク」。しかも生活習慣病は薬で治るものではありません。

 

☆それでも薬を欲しがる日本人。「ドクター・ショッピング」が目に見えているから、医師は自分が飲まない薬も処方するのです・・・。

 

 

 

なぜ医師の処方薬はテレビCMがない? 製薬企業のお客さんは医師だからです。

 

 

4月6日の発売以来、急速に各方面で話題となり、また物議を醸してもいる書籍、『知ってはいけない薬のカラクリ』著者の谷本哲也医師は、2009年から10年にわたってナビタスクリニックで診療を続けています(現在は川崎院)

 

 

 

 

谷本医師は内科医として、地方中核病院やがんセンター、大学病院など、様々な医療機関に勤務した経験も持っています。今回の著書はまさに、谷本医師自身が目の当たりにした医療現場の実態から生まれたもの、というわけです。

 

 

「はじめに」で谷本医師は読者に、風邪や花粉症の市販薬の大量のTVコマーシャルの陰で、血圧や糖尿病の処方薬(医療用医薬品)の宣伝にはまったくお目にかからないことを指摘。処方薬の取引相手は患者ではなく医師である、という大前提を示します。

 

 

消費者は患者(負担者でいえば、プラス健康保険組合&税金)なのに、どれを使うか決めるのは医師。そんな不自然な構造では、市場原理がきちんと働かなくなります。製薬企業が医師に「高級弁当」を出し、大学教授を厚遇で迎えて広告塔にするのも、自由競争の観点からは当然の営業活動になります。

 

 

日本人は薬を飲みすぎ? すべての薬は本質的には毒、って知ってた?

 

 

人間は慣れる生き物ですから、接待が日常になると、医師の感覚も次第にマヒしてしまうようです。一方、多くの国民はそんな事情を知る由もありません。律儀な日本人は、じゃんじゃん処方された薬を、その背景も知らず「きっちり欠かさず飲まねばならない」と考えます。

 

 

実際、同書によれば、日本人は世界で2番目に薬にお金を使っています。谷本医師いわく「日本人は世界有数の薬好き」というわけです。

 

 

そうして今、社会問題となっているのが「ポリファーマシー」(多剤併用)。5、6種類以上の薬を併用している状態を言いますが、実際には1日に何十錠も飲むことになっているお年寄りも少なくないですよね。

 

 

 

 

それによって健康を害している人も少なくないと見られます。薬同士が体の中で反応しあい、働きが強くなりすぎたり、弱まったりして、副作用が生じやすくなります。「高齢者が入院する原因の数パーセントは、ポリファーマシーによる副作用によるとも言われています」と谷本医師は書いています。

 

 

そもそも「薬はリスク」と昔から言われるように、元来、毒と紙一重です。太古の昔からの試行錯誤と犠牲の上に、薬として使える毒物の種類や量が見極められ、慎重に使われてきました。その基本は現代も変わりません。効果と副作用を切り離すことはできないのです。

 

 

特に、痛み止めや向精神薬、睡眠薬は、毎日使っていると「耐性」ができて、効かなくなってきます。そのため、次第に薬の量が増え、さらに強い薬を求める、という悪循環に陥ってしまうのです。

 

 

薬の処方に際する医師の本音とは? 谷本医師が「週刊現代」にコメント。

 

 

こうしたことについて、谷本医師は、本日発売の『週刊現代』最新号(2019年5月4日号)で以下のようにコメントしています。

 

 

(週刊現代2019年4月27日・5月4日合併号)

 

 

病院に行く人は、そもそも薬を求めてやってきます。たとえ薬を出さなくても、結局は他の病院に行ってしまうので、『自分なら飲まないのにな…』と思いながら処方している医師もいます。

 

 

あちこちの医師を転々と受診して回る行為は「ドクター・ショッピング」と呼ばれます。主婦が安い商品を求め、スーパーを次々に回って買い物をするのになぞらえた表現です。

 

 

本来、どこの病院を受診しても標準治療に変わりはなく、たいてい同じような検査、診断が下されます。そこで「薬は不要」という判断が最も適切だったとしても、薬信奉者の目的は薬そのものになっていますから、その判断に納得せず、処方してもらえるまで医療機関を回り続ける、というわけです。

 

 

こうしたドクター・ショッピングにより、社会として医療費の無駄遣いが発生しますし、他の患者さんの診療時間を奪い、医療の質の低下にもつながる問題です。

 

 

それが容易に想像できるので、医師は「仕方ない、お薬出しますか」(心の声)となるわけです。しかし、そうした薬は、

 

 

多くの医師は一時的に飲むことはあっても、飲み続けることは避けます

 

 

とのことです。

 

 

新薬にも飛びつかない。薬との適切なキョリ感を知って上手に付き合おう。

 

 

また、新薬についても、

 

 

処方はしても医師は自分で飲みたがりません。単剤では問題なくとも、合併症や他の薬との飲み合わせにより、何が起こるかはっきりしていませんから

 

 

と谷本医師。販売前にはどうしても限られた人数での臨床試験にとどまるため、実際には販売後に明らかになる副作用も多いのです。

 

 

実際、先冬のインフルエンザシーズンに最も処方された新薬「ゾフルーザ」も、4月5日の日本感染症学会で、耐性ウイルスの出現率の高さが指摘されました。会長の三鴨広繁・愛知医大教授は、「薬剤耐性を受け、薬の考え方を見直す時期がきた」とコメントしたそうです。

 

 

 

 

かつて、日本人の多くが感染症で命を落としていた時代には、特効薬で多くの人が救われ、日常生活を取り戻しました。しかし、生活習慣病は一時的に薬を飲むだけで治るという性質のものではありません

 

 

自分たちの病気と薬についてよく知り、正しい付き合い方、適度な採り入れ方を実践することが大事です。そうやって私たちが薬との適度な距離感をつかんだ時、“薬のカラクリ”にも変化が訪れるかもしれませんね。

 

 

谷本哲也(たにもと・てつや)

1972年、石川県生まれ。鳥取県育ち。1997年、九州大学医学部卒業。宮崎県立宮崎病院、国立がんセンター中央病院等で内科医として勤務の後、2007~2012年、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)審査専門員。2009年よりナビタスクリニックにて診療開始。2012年からは分野横断的な谷本勉強会を主宰し、成果を『NEJM(ニューイングランド医学誌)』『JAMA(米国医師会雑誌)』『ランセット』『ネイチャー』等に発表。2018年、探査ジャーナリズムNGO・ワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所の共同プロジェクトである、マネーデータベース「製薬会社と医師」に参加。日本内科学会総合内科専門医、日本血液学会専門医・指導医。

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