「胃がんリスク検診」「中2ピロリ菌検診」の普及に努める水野医師との対談、後編は久住医師の“素朴な”疑問から。治療のホントも伺います。
【まとめ】
☆中2ピロリ菌検診が普及したら、従来の胃がん検診は不要になる?!関係者からの異論は?
☆陽性時の除菌、抗生物質の効き目を左右するのは、意外にも“胃薬”。胃薬の改良で、最初から95%の除菌が可能に。
☆除菌時の抗生物質でアレルギー反応? 実は“紛れ込み”かも!別の薬でも対応可。ピロリ菌感染症認定医など詳しい医師に相談を。
※前編「【Dr.久住対談】ピロリ菌感染症認定医・外科専門医 水野靖大医師 ~胃がんリスク検診は人々と医療経済を救う」はこちら。
※中編「【Dr.久住対談】ピロリ菌感染症認定医・外科専門医 水野靖大医師 ~ピロリ菌検診を中学2年に導入すべき理由」はこちら。
新たな検診への異論は、保身のためのポジショントーク??
久住 中学2年生へのピロリ菌検診については、日本ヘリコバクター学会などピロリ菌の専門家のコンセンサスを得られている、ということですか?
水野 そうですね。まだまだ学会によっても考え方にバラつきはありますが、陣取り合戦のように、だんだんに味方の陣地が増えてきているというのは肌身で感じています・・・。
久住 一方、将来の胃がんリスクが中学2年生の段階で打ち消せるとなったら、従来の40歳以上での胃がん検診は、先々不要になってしまいますよね。だとすると、それに関わる人たちから異論が出そうですね。
水野 そうかもしれません。でも、内心は賛同してくださっている方も少なくないように見えます。
久住 表向きはポジショントークになってしまうんでしょうね。異議を唱えないと彼ら自身のアイデンティティを保てない。
水野 おそらくそうだと思います。でも、本当は少なくとも数十年は、彼らのアイデンティティを脅かすこともないはずなんです。中学生へのピロリ菌検査の成果が表れてくるのはずっと先のことですし、それまでに胃カメラそのものも改良されるでしょう。それに代わる、体への負担のない画期的な医療機器が出てくるかもしれない。
久住 大人の胃がんリスク検診は胃カメラ検診と比較されそうですが。
水野 それについては、そもそも比較するものではないと思っているんです。というのは、胃カメラ検査の問題点として胃カメラの台数やスタッフの不足が言われますが、それよりも今、いきなり胃カメラ検査を受けようとする人、受けたいと考える人は、そもそも少ないと思うんです。楽なものではありませんから。
でも、採血検査をして「あなた普通の人よりはるかに胃がんリスクが高いですよ」と言われれば、胃カメラをやろうと思う人は多いはずです。だから、胃がんリスク検診は、胃カメラ検査と比較するものではなく、胃カメラ検査へのゲートウェイのポジションになるんです。
ピロリ菌感染による胃炎の胃カメラ画像
(MRIC)
しかも、リスクを層別化して優先順位をつけられるから、先ほど言った医療資源の不足の解決にもつながります(前編参照)。
1週間の服薬で95%除菌。胃薬と除菌率アップの意外な関係。
久住 さて、ピロリ菌検査で陽性だった場合、除菌には、抗生物質と胃薬を組み合わせるんですよね。
水野 ペニシリン系とマクロライド系の2種類の抗生物質と、胃酸を抑える薬を1週間飲んでいただきます。それらの抗生物質は、細菌の増殖期に最もよく効く薬なんです。
久住 だから胃薬の効き目が重要と聞きました。
水野 はい。ピロリは胃酸に強い細菌ですが、それでも胃酸がない方が元気になります。そこであえて胃酸を抑えてやって、勢いよく増えようとしたところを、一気に抗生物質で叩く。ピロリにとっては非常にあくどいやり方なんですね(笑)
最近は、胃酸を強力に抑える薬が出たおかげで、ピロリ菌を最初(一次除菌)から95%の確率で除菌できるようになっています。思うように除菌できなかった場合は、薬の種類を変えて二次除菌を行います。そうすると除菌できなかった人の98%が除菌できます。
(大塚製薬)
久住 それもだめで三次除菌まで行くと、自費になるんですよね。とはいっても、ジェネリックを使えば薬代もさほどかかりませんが。三次除菌も薬の種類を変えるだけですか?
水野 三次除菌まで行くと自費ですし、さすがに気の毒なので、もう少し工夫を凝らして臨みます。例えば、ペニシリン系を1日2回から4回に増やして血中濃度を上げるなどしますね。
除菌の副作用で発疹、実は“紛れ込み”? 不安なら専門の医師と相談を。
久住 ペニシリン系抗生物質は薬疹(薬の副作用による発疹)が元々出やすいとされますよね。ただ最近、ペニシリンアレルギーとされるものの多くが、実は別の原因(「紛れ込み」と言われます)ではないかという話もあります。
それでも、ピロリ除菌は本人に自覚症状がないところに服薬するので、それで真っ赤に発疹が出たりすると、「何でこんなことになってるんだ」なんてことになりませんか?
水野 そうなんです。ピロリ菌がいても自覚がない人が多いです。もちろん、胃痛を訴えて調べたらピロリがいた、というケースもありますが、大抵は検診で見つかっているので。「治療が必要だ」という実感がないまま、治療に入る人も多いですね。
例えば、胃がんリスク検診でB-D群(前編参照)だったので胃カメラをやることになった方に、冗談まじりに「今日はなぜいらしたんですか。僕が散々来いって脅したから来たんですよね」と聞くと、患者さんも「そうです。先生ががんになるよ、って言うから来たんです」と笑って答える、なんてこともよくあります。(笑)
それくらいの気楽な感じでいて、いざ薬を飲んだら発疹が、となると、思った以上にビックリされてしまいますよね。
(日本皮膚科学会)
久住 ペニシリンが使えない人向けの薬剤の組み合わせもありますよね。
水野 あります、あります。
久住 ただ、ピロリ除菌のおそらく9割くらいを担うのは、そのあたりに詳しくない一般内科医なんですよ。患者さん側も、風邪をひいて受診したついでに「そういえば、ピロリの除菌ってできるんですか?」という軽いノリの人も多いですから。
ペニシリンが使えないと分かっている方や不安な方は、あきらめてしまうのではなく、水野先生のようなピロリ菌感染症に詳しい医師※に相談するといいですね。※日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医など。
水野 はい。ピロリ菌は自覚がない人が多いですが、一方で慢性胃炎や胃の不調の原因にもなります。胃がんまで心配していなくても、しょっちゅう市販の胃薬のお世話になる、という人も、最初から詳しい医師の下で検査してみて損はないと思います。
【完】
水野靖大(みずの・やすひろ)
マールクリニック横須賀院長。1997年、京都大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院、北野病院、日赤和歌山医療センター、東京大学医科学研究所附属病院などに勤務。腹部外科医として患者さんの全身管理、救急の現場に従事。2012年 マールクリニック横須賀開院。横須賀市公衆衛生担当理事。日本外科学会外科専門医、日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医、日本旅行医学会 旅行医学認定医。
久住英二(くすみ・えいじ)