-【Dr.久住対談】ピロリ菌感染症認定医・外科専門医 水野靖大医師(中編)~ピロリ菌検診を中学2年に導入すべき理由-

2019.03.08

横須賀市が中学生への実施を決めたのには、胃がんリスクの確実な低下と、医療費削減という、2つの確かなメリットがありました。

 

 

 【まとめ】

 

☆ピロリ菌の多くは親子感染?! 結婚前にピロリ菌検診を実施して、感染の連鎖を断ち切らねばなりません。

 

☆ピロリ菌が、胃がんの“種”を撒いて育てる前に除菌する必要あり。大人と同じ体格で高校受験まで時間もあり、胃がん報告のない中2がベストです。

 

 ☆中2全員へのピロリ菌検診で、将来の胃がん患者が減り、市の負担する医療費は将来的に大幅減少すると見られます。

 

 

※前編「【Dr.久住対談】ピロリ菌感染症認定医・外科専門医 水野靖大医師 ~胃がんリスク検診は人々と医療経済を救う」はこちら

 

※後編「【Dr.久住対談】ピロリ菌感染症認定医・外科専門医 水野靖大医師 ~従来の検診側からの異論は? 除菌率95%の決め手は胃薬?!」はこちら

 

 

 

なぜ中学2年生なのか?――40歳では親子感染を防げない。

 

 

久住 昨年10月、横須賀市が中学2年生3,000人に公費でピロリ菌検査を実施すると報じられ、大きな話題となりました。水野先生が奔走されたと聞いています。

 

 

水野 すでに昨年度と今年度、まず200人限定で横須賀市の中学2年生に対し、ピロリ菌検診と除菌を実施しています。

 

 

久住 中学生にも血液検査を行うのですか?

 

 

水野 いいえ、実は尿検査でもピロリ菌のチェックが可能です。体への負担はゼロです。その上で、陽性者については便あるいは呼気の検査を行い、陽性が確定したら薬を飲んで除菌を行います。中学生の場合は除菌までの過程で胃カメラは行わないんです。

 

 

 

 

もちろん、除菌も強制ではなく、抵抗があるなら20歳までにやるようお願いします。今除菌するなら費用はかかりませんよ、ということです。

 

 

久住 横須賀市では、すでに40歳以上を対象に公費で胃がんリスク検診を導入していますが、なぜ中学2年生なのでしょうか。

 

 

水野 先にお話しした通り、40歳以上の検診も大きな成果を上げています(前編参照)。ですから行うメリットは十分大きいのですが、もっと予防を徹底したいなら、それでは本当は遅いのです。というのも、ピロリ菌は大人になってからはほとんど感染しません通常5歳までに感染し、持続的に胃炎をひき起こし、発がんに至ります

 

 

久住 昔は井戸水から感染すると言われましたよね。

 

 

水野 たしかに、かつては井戸水からもピロリ菌感染が起きていたようです。もちろん地下水脈自体が汚染されているとは考えにくい。ただ、昔は堆肥を田畑に撒いていましたし、下水が未整備でし尿も地面に沁み込んでいましたから、容易に井戸に混入しそうです。しかし今、井戸水を使っている家庭は少ないですよね。

 

それで今は親からの経口感染がほとんどだと言われます。ところが、従来の市の胃がん検診は対象年齢が40歳以上なので、ピロリ保菌者が見つかっても既にお子さんがいることが多い

 

 

 

 

久住 もう親から子へ感染させてしまっている可能性が高いですよね。感染の連鎖を止めるためにも、結婚年齢より前がいいんですね。

 

 

なぜ中学2年生なのか?――40歳では胃がんリスクをゼロにできない。

 

 

水野 しかも、40歳以上で見つかって除菌しても、実は胃がんのリスクは、減りはしますが残ってしまう。ゼロにはできないのです。

 

 

久住 「除菌後胃がん」ですね。

 

 

水野 はい。ピロリ菌は、どこかの時点で胃がんの“種”を撒いて育てるんです。その前に除菌できればOKなのですが、撒かれた後に除菌しても発がんを完全には阻止できません

 

 

 

 

久住 何歳までに除菌すれば、将来の胃がんリスクがほぼほぼゼロになるんでしょうか。

 

 

水野 おそらく20歳くらいまでと考えられています。が、まだ議論の最中です。だったら、大人と同じ条件でピロリ菌検査と除菌ができる最年少で実施するべきと考えました。

 

網羅的に実施するためにも、進路がバラバラにならない義務教育の間に一斉に行う方が確実です。中学2~3年生なら体格的にも成人と同じ基準が適用できます。では、高校受験を控えた中3ではなく、中学2年生がいいだろう、と。

 

 

久住 高校受験前に「ピロリがいます」なんて告げられて、余計にメンタルに負担がかかっては困りますからね(笑)

 

 

水野 そのせいで高校受験に失敗した、なんて言われたらかないません(笑)

 

 

 

 

また、国立がんセンターの調査データでも、ちょうど14歳までは胃がんは発生していません。ですから14歳までなら、胃カメラ検査を省略して除菌しても、「本当はがんがあるにも関わらず除菌だけやってしまった」ということは起きない。がんを見逃すリスクもないんです。

 

 

久住 できるだけ若い段階で除菌できれば、親から子への経口感染も断ち切れるし、除菌後胃がんの可能性もごく小さくできる。体の発達という意味でも、当人たちの状況としても、中学2年生がベスト、ということですね。

 

 

自治体の負担する医療費は、将来にわたって大幅削減。

 

 

久住 中学生のピロリ菌検診も、成人同様に費用対効果がいいんですか?

 

 

水野 はい。例えば現在、横須賀の中学2年生約3,000人全員がピロリ菌検診を受けると、初期費用込みで900万円かからないくらいで除菌まで全部できます。軌道に乗れば毎年700万円くらいと予想されます。

 

横須賀のピロリ菌陽性率は2%(一般に都市部で2~4%)なので約60人が陽性の見込み。そこから将来がんになる確率は小さく見積もって15%なので、約9人。そうすると、1人あたり80万円~程度で胃がんが回避できるということになります。費用対効果がすごくいい。

 

もちろん中学生の将来的な胃がんリスクが大幅に軽減できるだけでも、やる価値は十分にあると思いますが、むしろお金の面だけ見ても評価されるべき検診です。

 

 

 

 

久住 彼らが胃がんを発病した場合の治療費と比べたらずっと少額ですよね。

 

 

水野 その通りです。将来的に大きな医療費削減につながります。

 

それで、昨年までの2年間は中学2年生のピロリ菌検診費用を、すべて神奈川県医師会が負担してくれていました。今後は横須賀市が負担するかたちで、中学2年生全員への実施を目指しています。

 

 

久住 ただ、その中学生たちが将来的にどこに住んでいるかは分かりませんが。(笑)

 

だから、全国で中学生に実施すればいい将来的には日本から胃がん患者が激減して、成人の胃がん検診もほとんど必要なくなりますよね。最新のがん統計でも、部位別の死亡数で胃がんは男性2位、男女計でも3位でした。それがゼロになるのは大きい。国を挙げて取り組んでもいいテーマですでよね。

 

 

水野 中学生と40歳の間の世代でも、成人式とかブライダルチェックとか、節目節目に自治体による胃がんリスク検診を入れ込んでいきたいですね。

 

全世代を数年間カバーできれば、市民の世代ごとの保菌状況も分かってきます。その時点で高リスク世代に胃カメラ検診を実施するなど、一気に市民の胃がんリスクを低下させられたらと考えています。

 

――後編へつづく。

 

 

水野靖大(みずの・やすひろ)

マールクリニック横須賀院長。1997年、京都大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院、北野病院、日赤和歌山医療センター、東京大学医科学研究所附属病院などに勤務。腹部外科医として患者さんの全身管理、救急の現場に従事。2012年 マールクリニック横須賀開院。横須賀市公衆衛生担当理事。日本外科学会外科専門医、日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医、日本旅行医学会 旅行医学認定医。

 

 

久住英二(くすみ・えいじ)

ナビタスクリニック立川・川崎・新宿理事長。内科医、血液内科医、旅行医学、予防接種。新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員を経て2008年、JR東日本立川駅にナビタスクリニック立川を開業。好評を博し、川崎駅、新宿駅にも展開。医療の問題点を最前線で感じ、情報発信している。医療ガバナンス学会理事、医療法人社団鉄医会理事長内科医、血液専門医、Certificate in Travel Health、International Society of Travel Medicine。

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