-【Dr.久住が斬る!】はしか急増中。接触者への緊急予防接種、費用は誰が負担するのか?-

2019.02.28

予防接種政策の不徹底による麻疹拡大。医療機関が尻拭いしたとしても、お子さんや高齢者の感染を防ぎきれるとは思えません。

 

 

【まとめ】

 

☆受診者が麻疹と判明した場合、医療機関は他の患者さんに緊急予防接種を実施します。しかしその費用負担者については曖昧・・・。

 

☆診察や待合については、いわゆる“隔離”も求められていますが、実効性はおおいに疑問。

 

☆1回接種世代のキャッチアップ接種を行わず、ワクチン忌避にも無策な厚労省。流行拡大のツケは、まず子供やお年寄りに。

 

 

 

 

年明けから再び患者が急増している麻疹(はしか)

 

 

怖いのは、麻疹は感染力が非常に強く、空気感染することです。急に訪れた患者さんを医師が麻疹と診断した場合、医療機関では、その方と待合や通路ですでに接触された他の患者さんたちへの感染が大きな問題となります。

 

 

 

基本方針としては、その患者さんと待合室で接触した人で、麻疹の免疫が無い人に、ワクチン接種を実施しなければなりません。ところが、そのワクチン接種の手間や費用を誰が負担するのかは、明確になっていません。

 

 

今回はこの問題について考えてみたいと思います。

 

 

麻疹?診断前のいわゆる“隔離”は、非現実的で効果も疑問。

 

 

まず、医療機関に麻疹と見られる患者が受診した場合の対応について、厚生労働省が平成30年に発行している最新の『医療機関での麻疹対応ガイドライン』第7版では、

 

 

麻疹(疑い)患者は、速やかに個室管理体制(可能な場合は陰圧室)で診察を行う

 

「できる限り受診前に電話等で受診方法を相談してもらうことが望ましいが、相談なく受診された場合は、速やかに別室に誘導・個室(可能な場合は陰圧室)管理できるように予め準備しておく」

 

 

となっています。いわゆる“隔離”です。(ただし「隔離」という言葉は平成23年の第3版まで使用され、平成25年の第4版以降は「個室管理体制」に改められています。同ガイドラインでは「個室管理体制」を、「空気感染対策が可能な体制」と説明しています)

 

 

 

 

しかし現実には、個室管理による麻疹の感染防止は、多くの医療機関にとって物理的に不可能。万が一麻疹患者が受診された時に備えて常に部屋を1つ遊ばせておかなければならない、というのは、クリニックでは厳しいところも多いでしょう。

 

 

たしかに麻疹以外にも隔離すべき疾病はあり、日常的に個室管理は必要とも言えます。しかし、例えば冬期にインフルエンザ患者たちを1つの部屋に集めたとして、そこに麻疹患者が現れたら入れ替わっていただく、というのもおかしな話です。

 

 

また、都市部であれば受診に電車やバスなど公共交通機関を使う人も多く、医療機関までの道のりで、すでに多くの人と接触しています。院内で接するよりずっと多くの人数と、すでに至近距離で接しているのです。それなのに、院内だけ個室管理することにどれほどの意味があるのでしょうか?

 

 

接触者への緊急予防接種、費用負担者は医療機関の“確認事項”。

 

 

同ガイドラインでは、麻疹患者が受診した場合、免疫が十分でない可能性のある接触者に対して、医療機関が、

 

 

大至急麻疹含有ワクチン(原則、麻疹風疹混合(MR)ワクチンを選択)の接種を検討する

 

 

としています。

 

 

(shutterstock)

 

しかも、医療機関側で接触者一人ひとりを追跡し、以下のように対応することが求められています。

 

 

接触後 72 時間以上を過ぎていても、今後の予防を目的としてワクチン接種を積極的に検討する

 

 

●同居家族の予防接種歴や、過去にかかったかどうかを大至急確認し、免疫が十分でない可能性が高けれれば、緊急予防接種を検討する

 

 

●妊婦など麻疹含有ワクチンの接種が不適当な人には、直ちに麻疹抗体検査を行い、免疫が不十分であればヒト免疫グロブリン製剤の投与について検討する

 

 

さらに問題は、同ガイドラインでは「予防接種費用の負担者の確認(医療機関、自費、行政)」が、「緊急予防接種の準備」の1つに挙げられていること。

 

 

要するに、麻疹患者が受診した場合、大至急あらゆる接触者への緊急接種を検討しながら、その費用は誰が負担するかも確認しなさい、と医療機関に言っているのです。ある程度予期していたとしても、現場の混乱は必至です。

 

 

実際、誰が負担? 明示した自治体資料も見当たらず・・・

 

 

もちろん、自費での接種を求めるのなら、流行拡大を防ぐことは難しいでしょう。仕事その他の用事を犠牲にし、なおかつ何千円も支払って、うつっているかどうか分からない麻疹のワクチンを打ちに受診する、というのはかなりのハードルです。

 

 

また、たまたま麻疹患者を受け入れた医療機関が、甚大な物的・人的コストをすべて負担して上記対応にあたるべき、というのも合理的とは言えません。受診した人の連絡先のリストアップから接種まで、ワクチン費用含めコスト総額は大きく膨れ上がります。

 

 

麻疹患者が大人であれば、内科での対応なので多くの接触者が免疫のある状態と考えられます。一方、小児であれば、年齢によってワクチン接種状況も異なるため、対応はさらに煩雑になります。

 

 

(shutterstock)

 

 

実際、過去の事例を見ると、小規模クリニックならば通常の診療も停止させざるを得ない事態に陥ると考えられます。無関係の大勢の患者さんにも迷惑が及ぶでしょう。特に、待合に人がひしめく冬場だと、接触者数も、影響を受ける他の患者さんの数も、相当なものになるでしょう。

 

 

行政が費用を負担するのであれば、多少はスムーズに事が運ぶかもしれません。しかし、全国一律に規定があるわけではなさそうです。しかも、費用負担者まで言及した自治体資料は見つかりませんでした

 

 

例えば、私が偶然見つけた沖縄県の資料でも、「県内で確定例、疑い例を問わず、発生報告があった場合」には、

 

 

保健所は、患者の了解を得た上で接触者に連絡を取り、情報提供、予防接種未接種者への緊急接種勧奨、発熱時対応などについて説明する

 

 

市町村(近隣含む)の予防接種担当課は、保育所や教育委員会等との連携等により、定期予防接種の実施状況の確認と未接種者へ早期接種勧奨をする(集団接種を実施している市町村では、臨時の個別接種等を検討する)

 

 

医療機関は、麻しん患者の接触者が希望した場合、緊急予防接種が受けられるよう配慮する。(ヒト免疫グロブリン製剤については、適応とメリット・デメリットや接触者が妊産婦や免疫不全などのハイリスクであるかどうかなどを考慮し、接触者へ十分説明した上で投与を決定する)

 

 

ということが書かれているだけでした。

 

 

ワクチン忌避にも無策の厚労省、ツケはまず子供や高齢者に・・・

 

 

日本では数年おきに麻疹が流行します。定期接種が1回だった世代へのキャッチアップ接種を厚労省が徹底しなかったからです。

 

 

(shutterstock)

 

 

さらに、「定期接種も、あくまでワクチンを受ける権利であって受けさせる義務ではない」と、予防接種を拒否する人々が一部に存在します。万が一かかった場合に、感染源となって周囲にかける迷惑は考慮されていません

 

 

国はこうしたワクチン忌避に対しても無策なのです。

 

 

認定こども園ですら、入園要件に予防接種を課すことが認められません。入園にあたって「他の園児への感染リスク」を理由に予防接種を求めた園に対し、内閣府は「未接種を理由に受け入れは拒否できない」との見解を示しました。

 

 

小さなお子さんたちが寝食を共にする場。患者が1人発生したら、クラスどころか園全体に簡単に感染拡大します。

 

 

実は、こうしたワクチン忌避は、国内だけでなく世界で大問題を起こしています。カリフォルニア州では、2015年にディズニーランドを感染源にした麻疹の流行がおきました。これは、ワクチン接種を受けない人が一定の割合を超え“免疫を持つ人の壁”が崩れたことによります。

 

 

ワクチン接種者が多ければ、少数の人がワクチンを打たなくても、他者の免疫にタダ乗りして、ウイルスとの接触が起きません。しかし、そうしたフリーライダーが増えると、タダ乗りできなくなるという、合成の誤謬※です。結果、カリフォルニア州では、医師が認めた場合以外は、ワクチン接種を忌避できなくなりました。

 

※小さな視点では合理的な行動であっても、それが合成された全体としては、必ずしも良くない結果が生じてしまうこと

 

 

 

 

接種をしましょうと言いつつ、実質的にはワクチン忌避を見て見ぬふりの厚生労働省。国の無策が、ワクチン接種をちゃんと受けていたのに感染してしまう事態(免疫力が十分維持されていない場合があり得ます)ばかりか、感染者が医療機関を訪れるという、バイオテロとも言える事態を日本各地で引き起こしているのです。

 

 

その尻拭いを医療機関に押し付けたとしても、感染拡大が防ぎきれるとは思えません。麻疹は重症化すれば命にもかかわる病。真っ先に被害を受けるのは、お子さんや高齢者です。

 

 

医療法人鉄医会ナビタスクリニック

理事長 久住英二

 

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