-白血病報道を振り返る――見守る姿勢と、できる協力を末永く!【ナビタス医師陣・解説まとめ・番外編】-

2019.02.26

競泳・池江選手の公表をきっかけに話題となった白血病と骨髄移植。最後に、今回のメディア報道と、私たちが今後すべきことについて考えます。

 

 

【まとめ】

 

☆池江選手に対し、国内外から応援の声が。しかし五輪担当大臣の「ガッカリ」発言も。白血病から復活したアスリートを引合いに出すことの是非は?

 

☆周りの人は自分の価値観を池江選手はじめ患者さんたちに押し付けるのでなく、見守り、サポートすることに専念を。

 

☆ドナー登録について問い合せ急増の骨髄バンク。一時のブームに終わらせず、ぜひ息の長い協力を!

 

 

※前編「競泳・池江選手は急性白血病? “早期発見”ではない?【基本編】」はこちら

※中編「抗がん剤がよく効く白血病。私たちにできる一番身近な応援って?【薬物治療編】」はこちら

・後編「骨髄バンク問い合わせ急増――骨髄提供のハードルを下げる社会的な仕組みを!【骨髄移植編】」はこちら

 

 

 

ちょうど2週間前、TVその他のメディアは、競泳・池江璃花子選手の白血病公表の話題でもちきりとなりました。弱冠18歳、東京五輪メダル候補として注目されてきた彼女に、国内外から多くの応援の声が寄せられました。

 

 

ナビタスクリニックの血液内科医陣も、勇気ある告白をした池江選手に、出演した番組等でエールを送りました。

 

 

(TBS「ビビット」2019.2.13)

 

 

一方で、五輪担当大臣の「ガッカリ」発言が物議を醸したことも。患者さんの周りの方や一般の方が、患者さんとどう接し、サポートしていくことができるか、また、メディアの取り上げについても考える機会となりました。

 

 

今回はシリーズ番外編として、こうした点について振り返っていきたいと思います。

 

 

他のアスリートを引合いに励ますことの是非。

 

 

まず、TVやスポーツ紙などが度々とり上げていたのが、白血病から復帰したアスリートの話題です。白血病は治る、だから希望を持って頑張って、という応援の気持ちが込められているのは確かです。ただ、とてもセンシティブな問題でもあります。

 

 

例えば、Jリーグ・アルビレックス新潟の早川史哉選手は、2016年に急性白血病と診断を受けましたが、治療の甲斐あって2年ぶりに今年、プレーヤーとして完全復帰されました。

 

 

しかしその彼も、チームのホームページで以下のようなコメントを発表しています。(抜粋)

 

 

=====

周りの多くの方はどうしても綺麗なドラマのように、復帰して再び活躍する姿を見たいと期待していると思いますが、まずは一人の人間として元気になってくれることを僕は願っています。決して明るく前向きなことばかりでないと思います。

 

今、SNSで「早川選手が2年、3年で復帰したから大丈夫」という話を目にしますが、それぞれの病気ですし、病気によってもそれぞれの段階があると思います。誰かと比較せずに池江選手のペースでしっかりと病気と向き合って進んでほしいのが一番の願いです。

======

 

(TBS「ひるおび!」2019.2.13)

 

 

一口に白血病と言っても、病気の程度、種類、回復など、全ては人によって違います。特に競泳は、限界まで自らを追い込み続けるスポーツ。健康な人でさえ競技から一瞬でも離れれば、世界レベルに返り咲くのは非常に困難、という現実もあります。

 

 

それを踏まえずに、「だから大丈夫、頑張って」という論調では、受け手には厳しい場合もある、ということ。よく心に留めおくことが必要ですね。

 

 

人生はこれから。価値観の押しつけでなく、継続的に心身のサポートを。

 

 

こうした状況を踏まえ、ナビタスクリニックの医師陣も、池江選手のみならず彼女を応援する多くの方々に向けて、メッセージを発信してきました。

 

 

【久住英二医師】

 

 

「病気は本来、非常にプライベートな問題です。でもそれを公表することで、池江選手は同じ病気の人に、自分の闘う姿勢を見てほしい、というメッセージを送っているのだと思います。そしてまた、公にすること自体が、自分が病気を克服するんだという強い意志の表れだろうと思います」

 

 

「生存率というのは、一般論であって、患者さんにしてみれば70%生きるとか、90%生きるということはありません。私が治療前に患者さんにお話しするのは、ベストな治療をするし、きっと治る。辛いことがあったら言ってほしい、教えてほしい。一緒に頑張りましょう。必ず乗り越えられる病気だ、ということです」

 

(TBS「Nスタ」2019.2.13)

 

 

「私たち医師は、患者さんから病気の辛さや治療中の思いを学ぶんです。病気をご経験されたかたから寄せられた池江さんへのメッセージに、我々はかないません。患者さんやサバイバーの方々を、尊敬しています

 

 

「ご本人は今葛藤の中にあると思います。周りの人が価値観を押し付けるのでなく、彼女をサポートすることに専念していただきたいです」

 

 

【濱木珠恵医師】

 

 

白血病の治療は長丁場応援が加熱して一時のブームで終わるのではなくて、静かな応援が長く続いてほしいなと思うんです。池江さんみたいな立場じゃないがんの方もそうなんですけれど、病院にずっといなきゃいけなくなって、自分だけが世界から切り離されちゃうんじゃないか、周りの人から忘れられちゃうんじゃないかとおっしゃる方が多いですから」

 

 

ただし、

 

 

「今後の治療がどうなっていくんだろうとプレッシャーがかかっている中で、渦中にある人は目の前の治療に集中する環境が大事です。病状を詮索したり、あれが効くこれが効くといった代替療法を勧めたりすることは、望ましくないことです」(以上、ビジネスインサイダーより抜粋)

 

(テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」2019.2.13)

 

 

「病気の治療について、外野がとやかく言っていいものではありません。それでも取材を受けているのは、間違った情報を発信されたくないのと、病気治療を一時的な流行のものとしてとらえてほしくないからです」

 

 

「大切なのは、応援の気持ちを持ちながら見守っていくこと。もしアクションを起こしたいのであれば、献血を続けたりワクチンを接種して感染症の流行を防いだりして、遠くから応援を続けていただくことだと思っています」

 

 

【上昌広医師】

 

 

「池江さん、じっくりと治療して復帰して欲しいと願っています。今朝の新聞を読むと、東京五輪の可能性に言及しています。体力や免疫力の回復を考えても常識的には無理でしょう。彼女は未だ若い。大人の都合で東京五輪の客寄せではなく、彼女の長い人生を考えて、我々も応援したいと思います」

 

 

(上昌広医師)

 

 

今はまず、病気の治癒、健康体に戻ることを目指す時、ということですね。そこからどんな道を選ぶとしても、きっと池江さんらしく輝くことができるに違いありません。

 

 

骨髄バンクへのドナー登録、一時のブームで終わらせないで。

 

 

今回、併せて注目を集めたのが、骨髄移植と骨髄バンクです。報道以来、ドナー登録に関する相談件数が急増したことは、先の【骨髄移植編】でもお伝えしました。

 

 

現在、日本骨髄バンクでは常時約3000人が骨髄提供を待っているのに対し、2017年度の移植実績は1240人ドナー登録者が増えるほど白血球の型が合う可能性が上がり、移植件数を増やすことができます。

 

 

ですから今回、骨髄バンクへの問い合わせが急増したことは歓迎すべきこと。ただし、そうした関心が、一時的なもので終わってしまうとしたら残念です。

 

 

(日本テレビ「スッキリ」2019.2.14)

 

 

「今回のように、有名な方が白血病にかかられて『応援したい』『提供できるかも』と登録者が急増することはあります。しかし、例えば歌手の本田美奈子さんの時もそうでしたが、その方が残念ながらお亡くなりになられた場合などに『やっぱりやめます』という方が出てきてしまいがちです」

 

 

と濱木医師。たいていはドナー登録から実際声がかかるまでにかなりの年月が経ってしまうため、モチベーションが低下してしまいがちなのだそうなのです。

 

 

「今回も是非、ご協力いただいた方は、お声がかかるのはいつになるか分かりませんが、池江選手だけでなく、同じ病気で苦しむ方をいつか助けることができる、という気持ちで登録を続けていただけたらと思います」(濱木医師)

 

 

(TBS「ビビット」2019.2.14)

 

 

健康な人ができること、すべきことを考えながら、病気と闘う人々を正しく、息長く応援したいですね。

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