女優の堀ちえみさんが公表した「舌がん」(ステージ4)。口内炎と勘違いしがちですが、早く気づいて口腔外科を受診することが大事です。
【まとめ】
☆舌がんは、50~70代の男性に多い、口腔がんの一種。初期には痛みがないことも多く見逃しがち。口内炎との違いは?治療は?
☆口腔がんリスクは、ヘビースモーカーで5.2倍、過度の飲酒で3.8倍にも! ただ、禁煙が進んでも減っていないことから、子宮頸がんウイルスとの関係も??
☆2週間たっても治らない口内炎は、念のため「口腔外科」を受診して。歯磨きの際など、舌の裏やヘリを鏡でセルフチェックしましょう!
※白血病の【ナビタス医師陣・解説まとめ】後編は、次回アップします。
舌がんとは? 痛みがなくて気づかない、放置しがち?
今回、堀ちえみさんが公表された舌がん(左舌扁平上皮がん)は、口腔がんの一種です。
口腔がんは、毎年7000~8000人がかかるとされます。これは、がん全体の1~2%。比較的珍しい、希少がんと言えます。
口腔がんのうち、4~6割が舌がんです。特に舌がんの出来やすい部位は、舌の両側のへり。歯の刺激が繰り返し加わり、度重なるうちに遺伝子に傷がつきやすい部分です。
形状・見た目にはタイプが色々ありますが、よく見られるのが次の2つ。
【白斑型】
まだらに白っぽくなり、ただれた状態。痛みを伴いづらい。
(日本口腔外科学会)
【潰瘍型】
穴のように深くえぐれ、かなりの痛みを伴う。出血しやすい。
(日本口腔外科学会)
この他に、盛り上がって出来物ができた状態のものや、粘膜がはがれたびらん状のものなどがあります。
特に注意が必要なのは、白斑型。当初は全く痛みがないことも多く、見逃しがちなためです。
ヘビースモーカーだと5.2倍!過度の飲酒で3.8倍! 子宮頸がんウイルスも原因?
舌がんをはじめとする口腔がんは、50~70代の男性に多い病気です。ざっくり言って、男性が女性の2倍。タバコの影響が大きいためと考えられています。ただし、女性も高齢になるほど増えてきます。
咽頭(のど)がんを含みます。
特に要注意なのは、喫煙と過度の飲酒!
口腔がんのリスクが顕著に上がります。国立がん研究センターの調査では、長年のヘビースモーカーは全く吸わない人に比べてリスクが5.2倍、毎日4合以上お酒を飲む人は全く飲まない人に比べてリスクが3.8倍になることが分かっています。
さらに、とがったむし歯や合わない入れ歯などをそのままにしていたりすると、同じ部分が繰り返し傷つき、がん化しやすくなります。
そしてもう一つ、口腔がんを引き起こすことが分かっているのが、子宮頸がんと同じ、ヒトパピローマウイルス(HPV)です。日本ではかつてより禁煙が進んでいるのに、口腔・咽頭がんの罹患率は減っていないことからも、関与の大きさが疑われます。ただ今のところ、HPVと舌がんの関係については明らかになっていません。
舌がんの治療とは? 切除部分は再建しても、飲み込みや会話に支障も。
舌がんの治療は、主に外科手術と放射線治療です。
特に、がんが大きい場合(3〜4㎝以上)や、首のリンパ節に転移がある場合(進行がん)には、まず放射線+抗がん剤治療でがんを小さくした上で手術を行うこともあります。
手術では、舌を切除する範囲によって術後の障害や後遺症が異なります。飲み込みや喋りなど舌の機能をできるだけ保つため、体の他の部分の皮膚を使って、欠けた部分が再建されます。
舌の切除範囲が半分までなら、機能障害も少なく味覚障害もありませんが、それ以上になると再建してもやはり食事や会話に支障が出ます。誤嚥も増えます。
また、進行がんでは、首のリンパ節に転移していることが多く、リンパ節と周囲の組織を含めて摘出手術が行われます。堀ちえみさんもリンパ節転移があるため、舌の半分とリンパ節、その周囲の組織を併せて切除し、手術は12時間に及ぶと見られるそうです。
また、対象となる症例は少ないものの、放射線治療だけで済む場合もあります。舌はそのまま残ります。通常25~30回前後に分割して、1回数分間、照射します。通常1日1回で約1ヶ月半かかりますが、外来通院治療も可能です。
口腔がん手術を毎年120件前後行っている(公財)がん研究会有明病院でも、やはり口腔がんの中でも一番多いのが舌がん。同院で治療した場合の5年全生存率は、ステージ1が91%、ステージ2が80%、ステージ3が65%、ステージ4が45%とのことです。
口内炎との見分け方は? 2週間続く場合は受診を!
気になるのは、口内炎との見分け方(口内炎ががん化するわけではありません!)。
堀ちえみさんも、長らく口内炎と勘違いしていたと言います。実際、ステージ3くらいまでは食べ物がしみる程度だったりして、口内炎にそっくりなことも多いのです。
分かりやすいのは、舌に固いしこりがある場合。口内炎は固くはなりません。
白斑型やびらん型といった、しこりにならないタイプでは、形をよく観察します。典型的な口内炎(アフタといいます)では、出来物と正常な粘膜の境目がはっきりしています。ただれたようになっている、まだらになっている、それなのに痛みがほとんどない、というのは要注意です。
ただ、口内炎に似ていることや、希少がんでもあることから、一般の歯科などでは見分けられないことも珍しくありません。
そうなると、ポイントは2週間前後で治るかどうか、です。
通常の口内炎であれば、2週間もすれば自然に治ります。2週間以上たっても治らない口内炎は、口腔がんを疑ってみるべきと言えそうです。念のため口腔がんを専門とする口腔外科の医師や医療機関を受診すべきと言えます。
鏡を使ってセルフチェックを!! 習慣にしましょう。
堀ちえみさんの場合、ブログを見ていくと、昨年の夏ころにまず舌の裏側に小さい口内炎ができ、病院で口内炎の塗り薬や貼り薬で様子を見た、とのこと。しかし11月には痛みがひどくなり、歯科でレーザーで焼いてもらったそうです(口内炎の場合は、レーザー治療で炎症を抑える効果が期待できます)。
その後、リウマチの定期診断で薬の副作用の口内炎かもしれないと言われ、薬を止めたものの、ひどくなる一方でした。年明けにはしこりが増え続けて、激痛に。夜も眠れず、食べ物も食べられず痩せてしまったのだとか。そこで1月21日に大学病院で検査したところ、2月4日に舌がんと診断されたとのことです。
この数ヶ月で急激に進行し、ステージ4に至ったと考えられます。リンパ節への転移があるとのことで、病状はかなり深刻です。
舌がんは痛みのない場合もあるので、目で見て、早い段階で変異に気づくことが大切。日本口腔外科学会では、セルフチェックを推奨しています。体内部の深い部分にあるがんと違い、鏡でチェックすることができますね。
(日本口腔外科学会)
受診する場合は、「口腔外科」と標榜しているところがお勧めです。日本口腔外科学会のHPで専門医のリストが確認できます。⇒こちら
日常的に、歯磨きの際など、舌のわきや裏まで鏡でちょっと見てみましょう。簡単なことですから、習慣づけるといいですね!