競泳・池江選手の公表で関心の高まった白血病。今回は、その治療と、健康な私たちが今すぐすべき”応援”についての解説です。
【まとめ】
☆白血病は抗がん剤がよく効く病気。分子標的薬の併用も。池江選手の年齢の急性リンパ性白血病であれば、7割が治る時代です。
☆無菌室では孤独や精神的ストレスも。また、アスリートとしてだけでなく、一人の若い女性として将来を見据えた治療法選択を。
☆健康な人ができる、もっとも身近な“応援”は、予防接種。流行を防ぎ、免疫力の低下した人たちを感染症から守ることです。
※前編「競泳・池江選手は急性白血病?“早期発見”ではない?【ナビタス医師陣・解説まとめ・基本編】」は、こちら。
今回は、急性白血病の抗がん剤治療と、私たちが今すべき“応援”の方法について、血液内科医である久住英二医師(ナビタスクリニック理事長)と濱木珠恵医師(同新宿院長)のメディア見解・解説を中心にまとめていきます。
白血病は抗がん剤がよく効く病気。分子標的薬との組み合わせも。
急性白血病の場合、基本は抗がん剤治療です。骨髄移植(次回)のイメージが強いかもしれませんが、実は、白血病は抗がん剤だけで治癒することもある病気。抗がん剤が効きやすいのです。
例えば、16~20歳の急性リンパ性病の場合、治療次第で5年生存率は7割近くなっています。
「急性骨髄性白血病であれば、複数の抗がん剤を使って白血病細胞を減らし、「寛解」※をめざす治療(寛解導入療法)がまず行われます。薬を投与するのは1週間、そこで白血球がゼロになります。そこから造血機能が回復してくるまで約3週間かかります。ですから約1カ月~40日でワンクール、これが第一段階です」と久住医師。
※寛解とは、骨髄中の白血病細胞が全体の5%以下になった状態をいいます。
(TBS「ビビット」2019.2.13)
「また、白血病細胞の遺伝情報を調べ、治りやすいタイプか治りにくいタイプかを判別します。治りやすいタイプであれば、最初の治療後に造血機能が回復したら、『地固め療法』といって、さらに2回ほど化学療法を繰り返します。最初の治療で5%以下になった白血病細胞をさらに死滅させ、根治を目指します。最も順調に行けば、全部で4カ月~半年ほどで終わります」
「また、白血病のタイプによっては、分子標的薬の併用で治療が劇的に変わりました。急性リンパ性白血病の一部では、グリベックという薬を1日4錠、従来型の抗がん剤と併せて飲むだけで、ほとんど治るようになりました」とのこと。
なお、抗がん剤には強い吐き気というイメージがあると思いますが、今は比較的抑えやすくなっていますし、分子標的薬では、吐き気のほとんど出ないものもある、とのことです。
(TBS「ビビット」2019.2.13)
治療の辛さは副作用だけではありません。また、将来も見据えた治療法選択を。
池江選手の治療の見通しについて、久住医師は
「症状が出て受診して診断がついたら、その日のうちに治療を開始することも普通です。白血病は若い方を含め、皆さん進行が早いです。異常な白血球が昨日は5万、今日は10万、という増え方をします」
「池江さんは日頃から鍛えてらっしゃるし、若いということは、抗がん剤治療に耐える体力がある、ということ。心臓、呼吸器、腎臓機能がしっかりしています。合併症がある人の場合は、治療のための前段階の治療が必要ですが、そういうものがない状態ですぐに治療に入れるというのは良かったと思います」
との見解を示すと共に、
「一番辛い治療では1カ月くらい白血球がゼロの状態が続き、無菌室で過ごすことにもなります。その間、色々なストレスや孤独感との闘いもあるでしょう。そういう過酷な状況に打ち克って頑張ってもらいたいとしか言えないですね」
と、白血病ならではの精神面での辛さにも言及。
(フジテレビ「グッディ」2019.2.13)
濱木医師も、
「いずれにしても半年後くらいに、きちんと白血病細胞が抑え込まれていて、自分で血液を作ることができるようになっているかどうか。リハビリやトレーニングの再開はそこからだと思います」
「白血病は未成年のがんで最も多いがんですが、若い女性の場合は特に、妊娠能力をキープさせるかどうか、将来のことも考慮して治療法を検討する必要があります」
と、アスリートであると同時に若い女性でもある池江選手の将来を気遣いました。
(テレビ朝日「モーニングショー」2019.2.13)
予防接種で感染症の流行を防ぐことが、一番身近な応援です!
さて、池江選手を始めとする白血病の方や、様々な病気や治療で免疫力の下がった状態の方々に対し、多くの人ができるとても身近な “応援”があります。
予防接種です。
「白血病は正常な白血球が少ない、つまり免疫力が低下する病気ですし、また、抗がん剤の影響によっても弱まります。さらに、骨髄移植を行えば、ドナーから提供されて植えた細胞に対して自身の免疫細胞が攻撃を加えないよう、免疫抑制剤が投与されます。そのため感染症にもかかりやすく、またワクチンが打てなかったり、打てても免疫がつきにくかったりするのです」
「今、風疹や麻疹などは、生ワクチンなので患者さんには打てません。患者さんにとっては命に関わる脅威ですから、外出も怖くてできないそうです。皆さんが予防接種を受けることで、そうした方々を遠巻きながら応援していることになるんです」(以上、濱木医師)
「正常な白血球が少ない、また抗がん剤で免疫機能の下がっている白血病の方にとっては、今流行っているはしかや風疹も命にかかわる病気となりえます。健康な我々が、ぜひ流行させないよう、多くの方が予防接種を受けていただきたいと思います」(久住医師)
健康な我々が、率先して予防接種を受けることで、患者さんたちを感染から守ることができる。感染の脅威から遠ざけ、少しでも患者さんのQOLが高まるよう、応援することができる、ということです。
まだ予防接種を受けていない、という方は、これを機にぜひご検討ください。病気と闘う多くの方々を社会として応援していけたらいいですね。
・後編「骨髄バンク問い合わせ急増――骨髄提供のハードルを下げる社会的な仕組みを!【骨髄移植編】」はこちら。