競泳の池江選手の白血病公表に関し、ナビタスクリニックの医師陣がTV他で発信してきた見解や解説を3回に分けてまとめます。
【まとめ】
☆「血液のがん」と言われる白血病は、血液の元になる細胞の遺伝子に傷がついて異常増殖するもの。未成年のがんとしては、もっとも割合が多いそうです。
☆池江選手の場合、明らかにされてはいませんが、「急性白血病」と見られます。ポイントは、貧血症状と進み具合の速さ。
☆「早期発見」との報道もありますが、専門的見地からは正しいとは言えません。症状等から「早期診断」とも考えにくいとのこと。
※中編「抗がん剤がよく効く白血病。私たちにできる一番身近な応援って?【ナビタス医師陣・解説まとめ・薬物治療編】」はこちら。
競泳女子の池江璃花子選手が今月12日、自身の白血病を公表しました。ナビタスクリニックの理事長である久住英二医師、新宿院院長の濱木珠恵医師、同院上昌広医師が、TVをはじめとするメディアで解説や見解を述べてきました。
白血病、ってどんな病気?
白血病は、「血液のがん」とも言われます。骨の中にある造血幹細胞(血液を作る細胞)ががん化し、白血病細胞となって無制限に増殖を続けてしまう病気です。白血球や赤血球など、血液細胞が正常に作られなくなってしまいます。
「血液をつくる造血幹細胞には自己複製能があり、それが分化して赤血球や血小板、そしてリンパ球などの白血球に成長します。その過程で遺伝子に傷がつき、がん化し、異常に増え続けると白血病を発症します。」
(TBS「Nスタ」2019.2.13)
「白血病ではがん細胞ができてから2~数週間で発病すると言われており、がん化のプロセスは明らかになっていません。原因も様々に考えられ、特定はできません。体の細胞の中で、ものすごい勢いで増殖し続けるのが、骨髄の細胞と小腸の粘膜の細胞です。その分、遺伝子のコピーミスも発生しやすいため、発がんしやすいとは言えます」
「リンパ球になるはずのものががん化したのが、リンパ性白血病で、3種類くらいあります。その他の血液細胞ががん化したものは骨髄性白血病で、8種類くらい知られています」
(以上、久住医師)
国内での発症者数は年間約14,000人。JALSG(日本成人白血病治療共同研究グループ)によると、国内での発生率は2009年では年間人口10万人当たり6.3人(男7.8人、女4.9人)。ただ、未成年のがんとしては最も高い割合を占めます。骨髄性白血病は喫煙と関連があるために喫煙者の多い男性に多いものの、子供ではまたメカニズムが異なるとも言われます。
(TBS「Nスタ」 2019.2.13)
急性白血病の可能性? 医師としてそう推察する理由。
さらに、白血病は図の通り大きく慢性と急性に分けられ、自覚症状も治療法も異なります。ただ、現時点で池江選手の詳細な病名は明らかになっていません。
(テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」 2019.2.13)
急性白血病は、白血病細胞が増えて赤血球・白血球・血小板が作られなくなるため、貧血になりやすく免疫も次第に低下します。慢性白血病の場合は、白血病細胞とともに赤血球・白血球・血小板も増えるため、自覚症状が出ずに気づきにくく、健診などで指摘されることが多いようです。
池江選手の白血病について、自覚症状や進み具合の速さから、医師陣は「急性白血病」ではないかと見ています。
「池江選手は、1月頃から、疲れが取れない、体が重い、息切れといった貧血症状がみられ、成績不振に悩んでいたようです。さらに、微熱が続いていたというのは、正常な白血球の減少が疑われる症状です」と濱木医師。
(TBS「Nスタ」2019.2.12)
久住医師も、「肩で息をするような状態というのは、貧血が起きていたということ。つまり白血病細胞が大量に作られ、酸素を運ぶ赤血球が正常に作られなくなっていたと考えられます。これは急性白血病の典型的な症状です。去年8月のアジア大会6冠の時点では、発病していなかったと考えられます。発病していればここまでのパフォーマンスは難しいです。発病して数ヶ月以内ではないか」と指摘しました。
(TBS「ひるおび!」2019.2.13)
「早期発見」報道は、医学的には誤り。
また、池江選手の白血病は「早期発見」だった、とも報道されています。
(フジテレビ「ビビット」2019.2.13)
しかし、かつて虎の門病院で久住・濱木医師を血液内科医として鍛え上げた先輩医師でもある上医師(医療ガバナンス研究所理事長)は、Business Journal(2019.2.14)でこの情報について次のように述べています。
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厳密に言うと、これらは医学的には誤りだ。白血病は血液の病気であり、血液は全身を循環する。胃がんなど固形がんのように1カ所で病変が生じ、全身に転移するものと違う。早期発見や手遅れという概念はない。
(中略)
私が気になるのは、1月13日に都内で実施された競技会で、自身の日本記録から4秒以上遅れたこと。18日からのオーストラリア合宿で、練習中に激しく肩で息をするなど異変が見られたといわれる点だ。おそらく、この時期に白血病による貧血が進んでいたのだろう。決して早期診断ではない。
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上昌広医師
白血病の治療の経過は、遺伝子や染色体の異常に基づく分類によるところが大きいとのこと。つまり、固形がんとは違い、早期診断か手遅れかという議論自体がそもそもあてはまらないのです。
とはいえ、白血病は年齢が若ければ若いほど、治療成績がよいものでもあります。つまり、若い人ほど治る確率が高いのです。
治療も進歩しています。次回は引き続き「抗がん剤治療編」をまとめます。
※中編「抗がん剤がよく効く白血病。私たちにできる一番身近な応援って?【薬物治療編】」はこちら。
・後編「骨髄バンク問い合わせ急増――骨髄提供のハードルを下げる社会的な仕組みを!【骨髄移植編】」はこちら。