風疹の流行拡大を防ぐため、成人男性の一定層を対象にワクチンが定期接種化されることとなりました。しかし国内メーカーによる供給量は、目標達成に必要な本数を大きく下回っています。混乱は時間の問題に見えます。
【まとめ】
☆長引く風疹の流行で、残念ながら、妊婦から胎児も感染して障害が起きる「先天性風疹症候群」の赤ちゃんが報告されました。
☆厚労省は昨年末にようやく一定年齢層の男性への風疹抗体検査・予防接種の無償化を発表。
☆しかし遅いばかりでなく、対象者300万人に対し、ワクチンの国内供給量は100万本のみ。それでも緊急輸入措置などの動きは一切ありません・・・。
2018年度予算に組み込まれた成人男性への風疹対策、対象者は300万人!
懸念されていた事態が起きました。厚労省は昨日、風疹ウイルスに感染した妊婦から胎児も感染し、障害が起きる「先天性風疹症候群」(CRS)の届け出が埼玉県にあったことを明らかにしました(報道)。国内での確認は先の流行(2014年)以来とのことです。
(Shutterstock)
成人男性を中心に今も流行している風疹。昨年は首都圏を中心として2,917人の患者が報告されました。
この事態を受け、厚生労働省は昨年末、今年1月から2022年3月までの約3年間、今年40-57になる成人男性の抗体検査とワクチン接種費用を原則無料とする方針を発表しました(自民党厚生労働部会・社会保障制度調査会・雇用問題調査会合同会議が、風疹に関する追加的対策の骨子を了承)。
上記定期接種化の費用として、17億円が2018年度の第2次補正予算案に盛り込まれています。18年度予算の活用分を含めると、計30億円の予算計上となるそうです。
厳密には、接種対象者は、1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性約1610万人です。その世代の男性は、風疹の抗体保有率が約80%と低く、他の年代に比べて風疹に罹りやすいことが分かっているためです。
これを、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックまでに85%へ、2021年度末までに90%以上へと、引き上げを目指すというのです。実際に接種が必要なのはそのうち2割程度と言われ、3年間で最大300万人程度と見られます。
どう見ても足りないワクチン。対象者は300万人以上なのに、供給は100万本以下?
ところが問題は、風疹ワクチンの供給量。
先日、ワクチン供給側の関係者に詳しい話を聞く機会がありました。結論として私は、国内のワクチン製造に頼る限り、目標達成はまず無理だろうとの確信を強めました。
一般社団法人日本ワクチン産業協会(国内でワクチンを製造・販売している企業が集まって組織された団体)が毎年発行している『ワクチンの基礎』2018年版冊子によれば、2016年の麻疹風疹混合(MR)ワクチンの生産量は、271万4千本。同じく風疹ワクチンは17万8千本。両方を合わせても、供給量は年間約289万本です。
子供への風疹予防の定期接種は、1歳と就学前1年間の2回。毎年、100万人弱の赤ちゃんが誕生すると考えると、2期分で約200万本使われますから、単純計算で大人に使えるのは残りの89万本です。
先の通り、対象年齢の成人男性のうち抗体検査が陰性の人だけに接種するとしても、必要な本数は300万本以上。すみやかに接種の段取りが整ったとして、到底足りるとは思えません。
その関係者は、厚労省から合同会議に示された追加的対策の骨子案と、その議事録を確認したそうです。合同会議では、供給量はどうなのか尋ねた議員もいたものの、厚労省側からは「考えます」「前向きに検討します」といった回答しかなかったとのこと。
そんな中、厚労省は新たに、まずは特に患者の多い40~47歳(1972年4月2日~1979年4月1日生まれ)の男性に、定期接種の対象を絞る施策を打ち出しています(こちら)。4月以降、市町村から抗体検査の受診券を送付し、受検を促すようです。ただし、上記以外の年代の男性でも、希望すれば受診券はもらえる、としています。
たしかに絞り込みは致し方ないでしょう。しかしながら、問題は2つあります。そうしてお茶を濁していても、供給体制が需要より大幅に下回っている以上、不足は解決しないこと。そして、最初に抗体検査を求めるため、忙しい働き盛りの男性にとって接種へのハードルが高く、定期接種化しても実効性が疑わしいことです。
不足分を輸入すれば解決する話。しかし、素知らぬ顔の厚労省・・・。
現在、風疹含有ワクチンは国内3社が製造しています。先ほどの関係者によると、通常は供給不足が起きないよう、関係官庁と日本ワクチン産業協会とが協力し、製造各社で需給調整の指示が出されるそうです。
しかし今回の追加必要量は、現実的とは言えない数字。一気に倍近く生産量を増やせるような、大きな工場を持つ会社は国内にはありません。絶対量から言えば、いずれ供給不足を巡った混乱は必至です。
では、供給不足を回避するための現実的な施策とは何でしょうか?
単純です。足りない分を海外から輸入することです。
実際、国内での不足を補うために海外からワクチンの緊急輸入が行われたことが、2000年代に入って1度だけあります。2009年に起きた、新型インフルエンザの世界的大流行(パンデミック)の際です。
ところが年が明けた1月、承認審査を簡略化した薬事法上の特例承認が初適用された頃には、すでにパンデミックは急速に終息へと向かっていました。結局、輸入されたワクチンは大量に余ってしまい、破棄するしかなかったそうです。
こうしたドタバタ(決断が遅きに失しただけですが)を経験したために、国は海外からのワクチン輸入に及び腰になっているのでしょうか。国として輸入しようという動きはもちろん、話すら出ていません。
他に何か理由があるのでしょうか・・・?
【後編に続く】
医療法人鉄医会ナビタスクリニック
理事長 久住英二