-【濱木医師出演 日テレ「ZIP!」】日本陸連、鉄剤注射を原則禁止――でも、「隠れ貧血」への懸念も?!-

2018.12.22

日本陸上競技連盟の鉄剤注射の原則禁止方針に関連し、ナビタスクリニック新宿の濱木珠恵院長が、日本テレビ系列「ZIP!」の取材に応じました。

 

 

【まとめ】

 

☆日本陸連は治療を含む鉄剤注射の使用を禁じる方針を発表。本来は貧血治療に使用される鉄剤注射が、パフォーマンス向上のために使用されていました。

 

☆鉄剤の使用がドーピングに等しいと見なされ、問題化。また実際、鉄が内臓に溜まる鉄過剰症に陥れば、疲労感や糖尿病、関節痛、心不全など様々な体調不良に。

 

☆ただし、鉄剤注射を禁じる前に、把握しきれていない「隠れ貧血」対策の徹底を。特に女性アスリートは貧血が深刻。広く議論を!

 

 

なぜ日本陸連は鉄剤注射の使用を禁じたの? ドーピングに近い効果?

 

 

日本陸連はこのほど、治療目的を含む鉄剤注射の使用を禁じる方針を発表しました。鉄剤注射は本来、貧血治療目的で使用されるもの。ただ、長距離の陸上選手が使用すると、持久力や競技欲を高め、タイムの向上につながるなどと言われています。

 

 

そのため日本陸連は2016年から選手への使用を控えるよう、ポスターなどを作成し、「安易な鉄剤注射は体調悪化の元」と呼びかけていました。

 

 

ポスターでは、「鉄剤注射は投与量が多くなりがちで、鉄が肝臓、心臓、膵臓、甲状腺、内分泌臓器や中枢神経などに沈着し、機能障害を起こすことがあります。体調不良とかパフォーマンスが思い通りでない、といった理由で、鉄剤注射を受けることはもってのほかです。鉄剤投与が注射でなければならないのは、貧血が重症かつ緊急の場合や鉄剤の内服ができない場合です」と警告しています。

 

 

今回は、高校駅伝の一部強豪校で貧血治療用の鉄剤注射が不適切に使われていたとして、改めて協議が行われ、原則禁止を発表したものです。

 

(ZIP!)

 

 

会見では、日本陸連の尾縣貢常務理事が「ド―ピングに近いもの」「おそらくスポーツ界あるいは社会では認められない」と話しました。

 

 

「鉄過剰症」ってどんなもの?

 

 

鉄剤注射は本来、重い「鉄欠乏性貧血」の治療に使われるものです。では、鉄剤注射によって、健常な人の体内に過剰に鉄分が入ると、どのような影響が起きるのでしょうか。

 

 

濱木医師は日本テレビ「ZIP!」(昨日放送)の取材に対し、

 

鉄過剰症の心配があります。例えば肝臓に鉄分が溜まってしまったら、肝臓の中で老廃物を捨てることができなくなり、疲れがたまりやすくなります。心臓に溜まってしまったら、心臓の筋肉の動きが悪くなって、心不全を起こしてしまう可能性もあります」

 

と説明。

 

(ZIP!)

 

 

たしかに添付文書(薬の説明書)を見ても、まず最初に「禁忌(次の患者には投与しないこと)1.鉄欠乏状態にない患者[鉄過剰症を来すおそれがある。]」と書かれています。

 

 

ただし軽度の鉄過剰症ではほとんど症状はありません。やや重くなると、脱力感や疲労感が出てきます。重度の鉄過剰症では、黒っぽい皮膚、糖尿病、関節痛、勃起障害など、自覚症状が見られるように。

 

 

次のような臓器に鉄が溜まりやすいことが分かっています。

 

脳→下垂体機能不全(成長障害・不妊)、脳の神経変性疾患

甲状腺 →甲状腺機能不全

心臓 → 心不全・不整脈・心筋症

肝臓 → 肝炎・肝硬変・肝臓がん

膵臓 → 糖尿病・膵臓壊死もしくは膵臓がん

生殖腺 → 性機能不全

(自治医科大学「鉄過剰症診療ガイド」

 

 

鉄剤注射禁止で、「隠れ貧血」は大丈夫? 特に女性アスリートは鉄欠乏が心配。

 

 

たしかに、鉄過剰症となれば、パフォーマンスも低下し、体調を崩して競技どころではなくなってしまいそうですね。

 

 

ただ、アスリートの特性を考える時、鉄剤注射を中止にすることには懸念もあるようです。

 

 

「貧血と診断されない、潜在性鉄欠乏症の人たちへの対策も必要」と指摘するのは、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長で、ナビタスクリニック新宿でも診療を行っている上昌広医師。

上昌広医師

 

潜在性鉄欠乏症は、いわば「隠れ貧血」。体内の「貯蔵鉄」が不足した状態です。

 

 

人間の体内にある鉄分のうち、およそ2/3は、血液検査でおなじみのヘモグロビン(Hgb)に存在します。そして残りの鉄分は血中の「フェリチン」に貯蔵されているのです。

 

 

ヘモグロビン値が正常でも、フェリチン値が減少した状態が、隠れ貧血

 

 

実は、血液中の鉄が足りなくなると、まず貯蔵鉄から不足分が補われ、貯蔵鉄から補充できなくなると血液中の鉄も不足して、ついには貧血になります。ですから隠れ貧血は、貧血の予備軍なのです。

 

 

予備軍とはいえ、なんとなく体の不調として現れることもあります。倦怠感、やる気が出ない、頑張りがきかない、動悸、たちくらみ、食欲不振など。

 

 

しかし、一般的な血液検査でフェリチン値を測定することはなく、通常の健診では「正常範囲」と判定されます。そのため、隠れ貧血はきちんと把握されていないのが現状です。

 

 

アスリートは、通常の人より鉄を多く消費し、また、汗などからも失われます。そのため把握できていないだけで、実は隠れ貧血が多い可能性も。特に女性アスリートは、減量志向が強いことや、また月経によっても鉄分が大量に失われることから、貧血が多いことも分かっています。

 

 

 

「鉄剤の錠剤を服用すると吐き気を起こす人も多く、その場合には注射しかありません。そもそも鉄剤がパフォーマンスを向上させるかどうか、科学的にもまだ決着がついていません。その段階で、原則禁止してもよいものか、まずは広く議論すべきです」(上医師)

 

 

公正な競技はもちろん大事ですが、その前に正しい健康管理の徹底が大前提。議論の広がりが期待されますね。

 

 

【参考文献・サイト】

・自治医科大学「鉄過剰症診療ガイド」

・MSDマニュアル家庭版「二次性鉄過剰症」

・福岡県薬剤師会ホームページ

 

 

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