飲み会が続くこの季節に人気なのが、「しじみエキス」。でも、よく知らないまま盲信して常用していると、かえって健康を害することもあるようです。
【まとめ】
☆しじみは「肝臓に良い」「お酒からの回復に良い」と、経験的に言われてきました。理由ははっきりしなかったものの、オルニチンが注目されています。
☆オルニチンには様々な健康効果が報告されています。ただし、肝機能改善を含む有効性のエビデンスには乏しい状況。ただ、適切に摂れば安全性はクリア。
☆より注意が必要なのは、「しじみエキス」。有効性だけでなく安全性も不明。常用によって肝機能に異常が出たケースも。水質の影響や、それによる含有物が濃縮される可能性も心配。
経験的に知られてきた、「お酒を飲む人はシジミ」ですが・・・。
「二日酔いの朝にはシジミ汁」「シジミを食べると悪酔いしない」なんて言いますよね。シジミは昔から経験的に、肝臓の働きを助けたり良くしたりする食べ物として知られてきました。
青森県産業技術センターはこのことを明らかにしようと、弘前大学他との共同研究で、アルコール性肝機能要注意者9人にしじみエキスを20週間摂り続けてもらう実験を行いました。すると、肝機能を示す指標であるγ-GTPの値が全員改善し、悪化した例は1つもなかったそうです。(ただしこの実験についての疑問は後ほど・・・)
こうした肝機能改善効果は昔から、シジミに含まれるタウリンやビタミンB12による効果だと言われてきました。
たしかにタウリンは肝臓関連の病気に使われる医薬品でもあります。ただ、健康な人が使った場合にどの程度肝機能を助けるのかは分かりません。また、そもそもイカやホタテの方が、タウリン含有量はシジミの20倍(100g当たり)以上にもなります。
ビタミンB12は、血をつくるのに必要な物質で、肝臓に蓄えられています。不足すれば悪性貧血や慢性疲労などの症状を引き起こしますが、通常、日本人は男女ともに不足はしていません。しかも、たしかにシジミには多いのですが、アサリやホタテにも同じくらい含まれます。また、一度に食べる量を考えれば、レバーの方が摂りやすいくらいです。
というわけで、どちらもあえてシジミとお酒を結びつける理由としては不十分です。
注目の「オルニチン」には様々な健康効果。ただ、肝機能改善効果は・・・?
そこで考えられたのが、オルニチンの効果です。
オルニチンは、アミノ酸の一種で、ホタテやハマグリ、アサリにはほとんど含まれない、まさにシジミに特徴的な成分。海外でも注目され、様々な健康効果の報告もあります。
例えば、筋肉合成や脂肪代謝を促進する効果。米国の研究では、健康な成人男性18人に、ウエイトトレーニングと併用して毎日5週間摂取してもらったところ、体重と体脂肪率が減少したそうです。また、ほぼ同様のカナダの報告では、筋力と脂肪を除いた体重が増加しました。
国内の研究では、血中の脂質代謝を促進させたり、運動回復後の疲労感を低下させたりする効果や、女性では運動パフォーマンスの低下を抑える効果が報告されています。
また、フランスの研究では、高齢者に2カ月間摂取してもらったところ、体重増加など栄養状態の改善や、食欲、QOLの改善が見られました。
ただ、国立健康・栄養研究所がインターネット上で公開している「『健康食品』の安全性・有効性情報」によれば、オルニチンの健康上の有効性を証明すると言えるに十分な研究はまだないのが現状です。肝心の肝機能改善効果についても、信頼性の高い報告は出ていないのです。
安全性については、「経口摂取で適切に用いる場合、おそらく安全である。妊娠中における安全性については十分なデータがないので使用を避ける」としています。ただし、「10g以上経口摂取した場合に、胃腸の不調(腹痛、痙性胃痛、下痢)が起こることがある」とのこと。パッケージなどに記載されている用量や含有量を確認し、過剰摂取のないようにしましょう。
シジミを丸ごと使った「しじみエキス」には、安全性に不安も・・・?!
さて、問題は「しじみエキス」です。
そもそも、サプリメントなどとして「シジミ(エキス)」を使用した場合の有効性・安全性については、データ不足で明らかになっていません(健康食品』の安全性・有効性情報)。
とある商品は、「国産シジミ100%」などと謳っています。これは言い換えれば、詳細な成分は原料のシジミに完全に依存していて、何が入っているか分からない、ということにもなります。(通常、サプリのオルニチンは、ウモロコシ由来の植物性糖質を原料に、微生物による発酵技術を使って人工的に大量生産されています)
冒頭でご紹介した青森県産業技術センター他による共同研究でも、被験者はわずか9人で、しかも顕著な結果として示された1人を除くと、その効果のほどは不明です。
一方、安全性については、この研究とは別に、習慣的に摂取し続けることでかえって肝機能に異常が出たケースも報告されているのです。
例えば2015年の国内の報告では、飲酒習慣のある38歳男性が、肝臓保護目的でシジミ抽出物を含むサプリメントを3~4日毎に2ヶ月間摂り続けたところ、黄だんや全身の倦怠感、尿の色の異常を生じ、医療機関を受診。血液検査で肝機能異常、肝生検で大脂肪滴、胆汁うっ滞といった異常が認められました。
さらに詳しく免疫系を調べたところ、シジミ抽出物に陽性を示し、「おそらく因果関係あり」と判断されました。そこでそのサプリの摂取を中止したところ、症状が改善したというのです。
また、シジミの本来の成分ではなく、シジミが育つ水質環境による汚染も心配されます。
10年前のことですが、宍道湖のシジミから残留農薬が検出されました。この時は、基準値を超えた農薬が検出されたとはいえ、「一日摂取許容量に照らしても人の健康に影響を及ぼすものではない」とされました。しかし、これをもしエキスとして濃縮したとしたらどうでしょうか?
定期的に検査を行っていたとしても、偶発的にそうしたシジミが含まれてしまう可能性はゼロではありません。それを使用して製造すれば、微量な農薬も濃縮されて濃度が上がってしまいます。
シジミに限らず、何かを何百倍、何千倍にも濃縮して体に入れるとなれば、効果よりもリスクが上回ってしまうことも。過ぎたるは猶及ばざるが如し。気軽に摂れるものこそ、慎重になる必要がありますね。
なお、C型慢性肝炎の患者さんは鉄過剰を起こしやすいことから鉄制限食療法が行われています。シジミには鉄分も多いことから、避けるように指導されています。さらにシジミエキス商品によっては、鉄なべを使った製造過程で鉄が含まれたり、中にはあえて添加しているものもあるので、注意してください。