ノーベル賞学者の本庶佑氏が会見でも指摘した、日本のHPVワクチン接種率の低迷。メディアが口をつぐんでいる間にも、若い女性の子宮頸がん罹患率は上がっていきます・・・。
【まとめ】
☆ノーベル賞を受賞した本庶佑氏が会見で、日本のHPVワクチン接種率の低迷について言及。10月にも「国際的にみても恥ずかしい」との発言も。
☆世界的に普及への尽力が続いているHPVワクチン。日本では副反応への誤解が問題となり、厚労省が積極勧奨を控えて以来、接種率は1%未満が続く。
☆安全性は科学的に明らかになったにもかかわらず、報道されない現実。このままでは日本人だけが将来も子宮頸がんに苦しむことに・・・。
ノーベル賞学者・本庶佑氏も憂う、危機的な日本のHPVワクチン接種率
先日、医療従事者向けの医療ポータルサイト「m3.com」に、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑特別教授(京都大学)の記者会見での発言が掲載されました。
「厚労省からの(積極的接種)勧奨から外されて以来、接種率は70%から1%以下になった。世界で日本だけ若い女性の子宮頸がんの罹患率が増えている。一人の女性の人生を考えた場合、これは大変大きな問題だ」
(m3.com「本庶佑氏、ストックホルムでも子宮頸がんワクチン問題に警鐘」2018年12月11日。以下m3)
(本庶佑特別教授、京都大学高等研究院)
これは残念ながら、事実です。
日本では2010年度から 子宮頸がんワクチン(ヒトパピローマウイルス※ワクチン)の公費助成が始まり、2013年には定期接種化されました。ところが、接種後に失神や全身の痛み、運動障害など様々な症状が報告され、報道は過熱。社会に不安が広がりました。
※子宮頸がんを引き起こすウイルス、HPV。
(Shutterstock)
すると厚労省は、定期接種化からわずか2ヶ月で「積極的な接種勧奨の差し控え」を発表したのです(定期接種は継続)。
その結果、接種率はどうなったでしょうか?
厚労省の資料から、次のことが分かります。
●1994-1999年生まれ(公費助成導入期に接種対象)女子のHPV ワクチン接種率は、約70‐85%。
●2000年度生まれ(積極勧奨中止後に対象年齢に到達)の女子の接種率は、ピーク時から半減して42.9%に急落。2001年生まれではわずか6.1%に。
●2002年度以降生まれの女子では、接種率は1%未満に。
このことから、日本では将来、接種率が高かった5年間に対象だった世代のみ、HPV 感染や子宮頸がん罹患のリスクが低下し、その後再びワクチン導入前の世代と同程度にリスクが上昇してしまうと見られています。
世界の常識から大きく外れる日本。当院を訪れる接種希望者も海外の方ばかり・・・。
本庶氏は10月の講演でも、こうした日本のHPVワクチンの状況について「国際的にみても恥ずかしい」(m3)と述べたそうです。
実際、世界保健機関(WHO)によれば、2016年までに65カ国でHPVワクチンが導入されています。
(HPVワクチン:ガーダシル・4価、MSD)
日本産科婦人科学会の資料によると、欧米諸国では2006-2008年に9〜13歳女児を対象にHPV ワクチンが定期接種化され、オーストラリアや米国では男児も定期接種となっています。公費助成を早くから行っている国々では、HPVへの感染が劇的に減少しているとのこと。
HPVワクチンの接種が進んでいるのは、先進国にとどまりません。
子供の予防接種拡大を通じて世界の子供の命と人々の健康を守るために設立されたGAVIアライアンス(同盟)の支援活動により、2017年までに世界30カ国の発展途上国でも、HPVワクチン接種が行われるようになっています。
GAVIは、2013年のプログラム開始以来、150万人以上の女児にワクチン接種を実現。さらに、2020年までに4000万人への接種を可能とするよう、プログラムの拡大を決定しています。
(GAVI)
こうして人道的見地から、世界的規模でその普及がバックアップされているのが、HPVワクチン。そこまでしても、人々の命を守るために当然に普及させるべきもの、というのが世界の常識なのです。
なお、ナビタスクリニック新宿の濱木珠恵院長によると、当院でも、HPVワクチンの接種希望者が増えていますが、「そのほとんどが海外、主に中国からの方々です」とのこと。
「中国からの留学生や、観光を兼ねて訪れる人もいますし、男性も少なくありません。特に、『ガーダシル9』※を導入してから、その数は急増しました」
※国内未承認ながら、世界的には主流のHPVワクチン。当院では個人輸入しています。ただし2018年12月14日現在、初回接種の方の予約受付を見合わせております。再開等につきましてはこちらをご確認ください。
中国でもHPVワクチンは手に入らないわけではありません。ただ、「わざわざ日本で接種を受けるのは、日本の医療への信頼の表れと見られます。対象的に、日本人の希望者がほとんど見られない現実に、現場も危機感を覚えています」
(新宿院 濱木珠恵院長)
「危険とは言えない」と、科学的には既に証明済み。
先の通り、日本ではHPVワクチンの定期接種化後、まもなく副反応騒動がありました。
しかし、ノーベル賞受賞後の会見で本庶氏も言っています。
「子宮頸がんワクチンの副作用というのは一切証明されていない。日本でもいろいろな調査をやっているが、因果関係があるという結果は全く得られていない」
「科学では『ない』ということは証明できない。これは文系の人でも覚えておいてほしいが、科学では『ある』ものが証明できないことはない。『証明できない』ということは、科学的に見れば、子宮頸がんワクチンが危険だとは言えないという意味だ」(以上m3)
(本庶佑特別教授・
HPV ワクチンの安全性については、WHO の「ワクチンの安全性に関する専門委員会」(GACVS)も昨年7月、世界中の研究を精査した上で「極めて安全」との見解を示しています。
また、今年5月には、医学的根拠の提供を行う世界的な非営利団体「コクラン」が、最も信頼性が高いとされる検証手法(システマティック・レビュー)を用いた上で、HPVワクチンによる重大な副反応や流産等のリスク増大を明確に否定しています。
もちろん、HPV ワクチンは筋肉注射であるため、注射した部位の一時的な痛みや赤み、腫れはほとんどの方に生じます。また、若い女性では、注射時の痛みや不安のために失神(迷走神経反射)を起こすことがないわけではありませんが、これはHPVワクチンに限ったものではありません(過去記事「予防接種で失神?ーーめったにない、あってもたぶんワクチンのせいではありません。」)。
それでも報道はなし。知らない日本人だけが子宮頸がんリスクにさらされ続ける?!
ところが、政府の積極勧奨差し控え以来、HPVワクチンの安全性については、きちんと報じられることがないまま放置されてきました。
本庶氏もノーベル賞受賞後の会見で、自身の研究以外に、HPVワクチン問題に関する報道に改めて苦言を呈しています(異例のことですよね)。
「マスコミはワクチンによる被害を強く信じる一部の人たちの科学的根拠のない主張ばかりを報じてきた」
「はっきり言ってマスコミの責任は大きいと思う。大キャンペーンをやったのは、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞。メジャーなところが全部やった。そしてNHKも責任の一端があると思う。今からでも遅くないから、きちんと報道してほしい。実害が生じている」(以上m3)
しかしm3によれば、12月11日現在、この問題に触れたメディアはないとのこと。
こんな異常事態がいつまで続くのか・・・それによって世界の中で日本だけ、救えたはずの命が子宮頸がんで失われ続けるのです(放置し続けるなら「不作為責任」が問われるところですよね)。
ナビタスクリニックはこれからも、HPVワクチンの接種率向上を現場から訴えていきます。