見送られたままのアフターピル市販化。その裏で、入手ハードルに乗じた違法なSNS取引が横行しています。
【まとめ】
☆アフターピルの入手しづらさに目を付けた違法なSNS取引の実態を、NHKが報じています。久住医師が取材に応えました。
☆個人輸入薬の転売は違法であるばかりでなく、ニセ薬も出回っていてキケン。
☆アフターピルの需要に対し、適切な供給体制が整っていない現状が、違法取引を生んでいます。適切なオンライン処方や市販化こそ、解決への道。
アフターピル、入手ハードルに乗じたSNS売買の実態。
ナビタスクリニックが9月に開始したアフターピル(緊急避妊薬)のオンライン診療。首都圏を中心に、2カ月間で約30件の利用がありました。東北や近畿からもアクセスがあり、その後も需要の多さを再認する状況になっています。
ところが、アフターピルの需要と入手へのハードルについての報道が増え、一般の認識が高まってきたことで、次に見えてきたのが主にSNSを通じた“ヤミ売買”の実態。
受診の心理的・時間的なハードルや、高額な費用(受診と処方で1~1.5万円程度)に目を付け、SNSで格安販売を謳っているようです。
一昨日、NHKが報じました。
(トップ画像もNHKニュースより)
それによると、ツイッターで「アフターピル」「緊急避妊薬」と検索をすると、直接やり取りをして配送や手渡しをしてもらえるようなツイートや、URLをクリックして医薬品の輸入代行業者のサイトにつながるツイートなど、様々な情報が飛び交っているとのこと。
NHK記者がそのうちの1件に返信し、手渡し購入(1箱1200円)を希望すると、現れたのは20~30代の女性。「アフターピルが入っている」と言われた箱は英語表記で何やら書かれており、中には白い錠剤が2粒。ただし、それが本当にアフターピルかどうか確証は持てなかったそうです。
実際、SNSを通じて、アフターピルに限らず、個人輸入を悪用した偽造医薬品が出回っているのだとか。
SNS取引の危険性と違法性――ニセモノ? 本物でも転売は違法です。
試しに改めてツイッターを覗いてみると、
「アフターピル(アイピル)お譲りします 大阪、梅田、兵庫、神戸 手渡しのみです お金がない方も相談に乗ります 3000円です お気軽にDMください! 鍵アカからのDMと、リプライは気付けません #アイピル #緊急避妊薬 #アフターピル #避妊失敗 #ピル #中出し #避妊」
といったツイートを30分おきに発信しているアカウントも。
調べてみると、「アイピル」というのは、「ノルレボ」のジェネリック医薬品とのこと。ノルレボは承認薬で、緊急避妊薬を求めて医療機関を受診すると、通常はこのノルレボが処方されます。性交渉後72時間以内の服用が必要。(ナビタスクリニックでは、5日以内の服用で有効な「エラ」も個人輸入し、オンライン処方ではそちらを処方しています)
たしかに一般の人でも、国内未承認の薬を個人輸入(自分で使用するために海外から輸入すること)は法律上、一定の手続きや条件の下に認められています。ただ、それを悪用した“輸入代行”業者も数知れず。
厚労省のホームページ(医薬品等の個人輸入に関するQ&A)にも、
「最近、個人輸入代行と称して、外国製の医薬品や医療機器を広告して、それらの購入を誘引する仲介業者がいます。しかし、日本の薬事法に基づく承認や認証を受けていない医薬品や医療機器の広告、発送などを行うことは、違法な行為です。また、何かトラブルが生じても一切責任を負おうとせずに、全て購入者の責任とされます。こうした悪質な業者には、くれぐれもご注意ください。」
と明記してあります。
NHKの取材に対して厚労省担当者も、
「未承認の薬の場合、個人が販売したり、譲ったりすることやそうした目的でため込むことは法律に違反することになります。また、承認されているものだとしても、『業』として、つまり反復して不特定多数の人に向けて、個人が販売したり、譲渡したりすることは違反です。ただし、購入することについての規制はありません」
と答えています。やはり上記ツイートもアウトですね。
でも、こうしたSNSでの発信を基に、アフターピルらしき錠剤が簡単に、普通に出回り、買ってしまう人も後を絶たないようです。
オンライン処方、そして市販化によって違法取引に歯止めを!
アフターピルの違法なSNS取引は、入手のしづらさに目を付けたもの。需要に対して、適切な供給体制が整っていないことの現れです。
ナビタスクリニックではそうした「必要なのに必要な時に手に入れられない」人が多い状況を打開すべく、市販化を支持してきました。コスト的にも助かる人は多いはずです。
しかし昨年、厚労省の会議で市販化は否決されました。苦肉の策としてスマホによるオンライン処方を開始した事情があります。
ところがNHKの取材に対し、厚生労働省の医政局医事課は、
「オンライン診療については指針で『初診は原則、直接の対面で行うべきである』としています。例外として遠隔地などにいて、すぐに適切な医療を受けられない状況で、オンライン診療を行う必要があるときは初診でも認められるとしていますが、こうしたケースはそこまでの緊急性があるとは考えられず、適切ではないと考えられます」
と回答しています。アフターピルを必要とする人々の状況に対する想像力が問われます。
金曜日に避妊に失敗した場合、すぐに入手したいと思っても、受診できる医療機関が土日は休診、月曜日は仕事を休めない、となった場合、通常処方される承認薬(ノルレボ)のタイムリミットである72時間を過ぎてしまいます。
また、地方では受診できる医療機関が限られ、実質的にプライバシーが守られにくいのが実際のところ。顔見知りばかりで心無いうわさがすぐに広まる、といった状況はよくあることです。受診をためらっているうちに、タイミングを逃してしまった、というケースも少なくないそうです。
「緊急避妊薬なので、まさしく例外に当てはまると考えています。アフターピルは血栓など危険な副作用も少なく、対面でないとリスクが高まるということは特にありません。何よりも迅速な対応、アクセスのよさが大切な薬なんです」(久住医師、NHK取材)
もちろん、市販化を求める声はますます高まり、実現のための活動も続いています(こちら)。ナビタスクリックもこの活動を支援しています。
オンライン処方や市販化には否定的で、違法なSNS取引は実質的に野放しになっている現状。需要と供給のひずみが生み出している矛盾です。本来、適切なオンライン処方や市販化が行われていれば、解決できるはずの問題ではないでしょうか。
アフターピルの市販化を反対する意見の中には、「解禁したら性の乱れが助長されるのでは」と心配する声があるようです。しかし、社会の秩序と人々の安心・安全、そして生きたい人生を生きる権利を守るために本当に必要な道はどちらなのか。皆さんもぜひご一緒に考えてみてください。