「マスクをしてもインフルや風邪は防げない」という話が昨年広まりました。本当にマスクをしても予防効果はないのでしょうか?
【まとめ】
☆マスクのインフル予防効果を調べた研究は色々あるものの、立証には至っていないため、米国CDCや英国NHSは使用に言及していません。
☆厚労省も昨年度までは、予防手段としてマスクを挙げていませんでしたが、今年度は「一つの防御策と考えられます」との指針を示しています。
☆ウイルスの鼻・のどの粘膜への付着を防ぐ効果もさることながら、粘膜の保温・保湿でウイルス排除能を高める効果が期待できます。
インフル予防にマスクは有効? 昨シーズンの噂の出どころは?
全国的にインフルエンザの流行がちらほら始まっているようです。
予防策を講じるにあたって思い出すのが、昨シーズンのインフルエンザ流行時に広まった「マスクではインフルエンザは防げない」という話。厚労省の見解でも、また海外の公的機関の見解でも、予防効果が挙げられていなかったために、マスクの使用の意義が疑われてしまったようです。
たしかに平成29年度の厚労省インフルエンザQ&Aでは、マスクは「咳エチケットの励行」の手段としてのみ示されていました。感染した時に周りの人にウイルスを広げないために推奨されていただけで、自らをウイルス感染から守る手段としては挙げられていなかったのです。
また、海外でも、マスクの使用は特に奨励されていません。米国CDC(米国疾病予防管理センター)では、ワクチン接種に加え、以下を挙げています。
【米国CDC】
・患者との接触を避ける。
・かかってしまったら、他人との接触は最小限に。少なくとも自然に熱が下がってから24時間は、外出はやめましょう(24時間以内に熱は下がるはず)。
・咳やくしゃみをするときは、ティッシュで鼻と口を覆う。使ったティッシュはゴミ箱に捨て、手を洗いましょう。
・石鹸と水で頻繁に手を洗う。石鹸や水道がない場合は、アルコールのジェル等を使いましょう。
・目や鼻、口を手で触らない。そこから感染します。
・ウイルスのついていそうな物を消毒する。
やはりマスクに言及はありません。英国NHS(国民保健サービス)でも、予防のための手段としてはワクチン接種のみが示されています。
なお、インフル予防にはワクチン接種がもっとも奨励されることは、厚労省、米国CDC、英国NHSに共通しています。
しかしこのところのインフルワクチン不足は、ナビタスクリニックも例外ではありません。受付の見合わせや1回目接種は受付終了などの対応を余儀なくされています。詳しくは各院ホームページをご確認ください。
(電話 03-5361-8383)
(電話 042-521-5336)
(電話 044-230-0580)
厚労省のインフルQ&Aに変化が・・・
そんな中、厚労省の今季のインフルエンザQ&Aが公開されました。
それによると、インフルエンザ予防のためにできることは以下の通り。
1) 流行前のワクチン接種
⇒感染後に発症する可能性を下げる効果と、発症した場合の重症化を防止する効果。
2) 外出後の手洗い等
⇒流水・石鹸による手洗いで、ウイルスを物理的に取り除く。インフルエンザウイルスにはアルコール消毒も効果あり。
3) 適度な湿度の保持
⇒空気が乾燥すると、気道粘膜の防御機能が低下し、インフルエンザにかかりやすく。加湿器などを使って適切な湿度(50~60%)を保つとよい。
4) 十分な休養とバランスのとれた栄養摂取
⇒体の抵抗力を高め、ウイルスを撃退する。
5) 人混みや繁華街への外出を控える
⇒流行中は、特に高齢者や基礎疾患のある人、妊婦、体調の悪い方、睡眠不足の人など、抵抗力が下がっている人は、人混みへの外出を控える。やむを得ない場合には、「ある程度、飛沫感染等を防ぐことができる不織布製マスクを着用することは一つの防御策と考えられます」
昨シーズンと明らかに違うところは、5)で引用したように、マスクの使用が明示されたことです(「一つの防御策と考えられます」と煮え切らない言い方ではありますが・・・)。
世界的にも、マスクの効果を調べた研究がないわけではありません。最近では2017年に、マスクのインフル防御効果に関する様々な研究を網羅的に分析し直した研究が発表されています。それによれば、医療用マスクやN95 マスク(米国労働安全衛生研究所のN95規格をクリアし、認可された微粒子用マスク)に一定のインフルエンザ様疾患やSARSへの防御効果が示唆されました。
(Sutterstock/Kateryna Kon)
マスクがインフル予防に役立つ意外な理由とは?
こうしてマスクについての研究もあるものの、予防効果はあくまで示唆レベル。マスクによって、患者の飛沫が直接口や鼻につくのを遮ることが期待されますが、完全に防げると断言できるところまでは行っていないようです。
ただ、マスクがインフルや風邪を予防するのに有効と考えられる理由は、もう一つあります。
それについて、久住医師が『FYTTE』(「忙しい人は風邪を引きやすい? 風邪撃退のカギはマスクと睡眠」)の取材に応えています。
「吸い込んだ外気と常に触れている鼻やのどの粘膜には、吸い込んだゴミや病原体を体外に排泄する仕組みがあります。しかし、粘膜が冷たい空気にさらされると、その能力が低下し、風邪を引きやすくなるのです」
「マスクそのものにはかぜ予防効果はないが、冷たい空気を吸うと鼻が詰まる方は保温目的でマスクをするのも手」
マスクで鼻やのどの粘膜を冷やさないようにすることで、体の防御力が高まるんですね。さらに、厚労省指針3)で挙げている保湿効果も期待できるので、マスクの使用はお勧めできる、というわけです。
使うなら正しく使わないと意味がありません。
さて、そもそもマスクの使い方が適切でなければ、防げるものも防げなくなる可能性が大。
まず、厚労省の指針にもあるように、「不織布」のものを1回1回使い捨てにします。布製のものを何度も使用することはお勧めできません。1日のうちに同じものを何度も使うことはもちろんNGですし、正しく洗濯・除菌して衛生的に保管・携行するのはなかなか難しいのです。
何より、マスクのパッケージにある説明書をよく読み、正しくつけること。鼻からあごまでを覆い、隙間がないようにつけることが肝心です。
(厚労省「咳エチケット」)
そしてマスクを外して処分する際は、ストラップのみをつまみ、不織布の部分には触らないこと。そこにウイルスが捕捉されているので、触ってしまっては手についてしまって、手から感染してしまっては本末転倒。
ちなみに、人々が一斉にマスク姿で通勤する光景は、実は日本独特のもの。海外では、マスクをしていると「私は病気を持っています」と言っているようなもので、敬遠されることもあるのだとか(海外から日本への旅行者は驚くようです)。予防のためにマスクを着用するという発想がないんですね。
先ほどの研究でも、特にN95の効果の高さが評価されている一方、仕事中に使用することについては、そのわずらわしさを考えるとなかなか受け入れられ難いだろう、としています。
しかし、もし予防効果がはっきりすれば海外でも認識は改まり、日本の“マスク文化”も見直されるかもしれませんね。正しく使って賢く冬を乗り切りましょう!