感染症から回復して保育園・幼稚園や学校に再び通うのに、「治癒証明書」を求められることがあります。でも、医師の眼から見て、必要性は疑問です。(川崎院院長・河野一樹)
【まとめ】
☆厚労省が、季節性インフルエンザに際する治癒証明についての方針を示し、大人の場合、職場が従業員に対して提出を求めることは望ましくない、としています。
☆学校や保育所への投稿・登園の判断については、診察に当たった医師が医学的知見に基づいて行うもの、としています。
☆医師としては、治癒証明は医療機関と保護者双方の負担にしかならず、不要と考えます。
治癒証明に対する厚労省の考え方は?
厚労省は、季節性インフルエンザの本格的な流行を前に、治癒証明書についての見解をホームページ(Q&A)に掲載する見通しです。
事前に資料が公開されているので、関連部分をまとめてみます。
●診断や治癒の判断は、診察に当たった医師が身体症状や検査結果等を総合して医学的知見に基づいて行うもの。
●インフルエンザの陰性を証明することは一般的に困難。
●季節性インフルエンザ後の治癒証明は、医療機関へ過剰な負担をかける恐れがある。
●治癒後、職場が従業員に対して、治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくない。
●学校から特定の検査等の実施や治癒証明を、全てに一律に求める必要はない。
●保育所へ子どもが登園を再開する際は、個々の保育所で決めるのではなく、子どもの負担や医療機関の状況も考慮して、市区町村の支援の下、地域の医療機関、地区医師会・都道府県医師会、学校等と協議して決めることが大切。
●この協議の結果、疾患の種類に応じて、医師の意見書または保護者記入の登園届を、保護者から保育所に提出することが考えられる。
まとめて言うと、「医師の判断そのものがあれば出社・登校・登園は可能で、治癒証明は必須ではない。患者側や医療機関の事情も考慮すべき」ということ。
なお厚労省は上記内容を、平成30年度の「今冬のインフルエンザ総合対策」公開時に追加するとしていますが、まだのようです。昨年以前のものはこちらから。
医師としては、治癒証明は本質的には不要と考えています。
これを踏まえ、医師として個人的な意見を書くなら、治癒証明はインフルエンザに限らず意味がないと思っています。
理由として、
●発熱した日や解熱した日は、問診(保護者からの申告)によるので、厳密に治癒したかどうか判定するのは困難であること
●ほとんどの人は、抗インフルエンザ薬の使用の有無に関わらず、5〜7日で軽快すること
●治癒証明のためだけに医療機関に受診するのは、医療機関と保護者の双方に負担であること
が挙げられます。
基本的に、医療機関は病気やケガの人が行くところです。元気になった人が治癒証明だけを求めて受診すれば、本当に医療を必要とする人の診察がその分遅れます。また、せっかく元気になったのに、病院や診療所で新たに感染症をもらってくることになっては、本末転倒です。
なお、一度医療機関を受診して薬をもらって療養していたものの、熱が続く、食事や水分がとれない、元気がない、咳がひどくなった、という場合は、もちろん再度受診しましょう。インフルエンザの合併症もしくはインフルエンザ以外の疾患がないかの評価をする必要があります。
ナビタスクリニック川崎 院長 河野 一樹