ナビタスクリニックでも今月から開始しているインフルエンザの予防接種。でも、「打ってもかかった」という人、いますよね。その理由と、それでも接種をお勧めする理由をお話しします。(川崎院院長・河野一樹)
【まとめ】
☆予防接種は本人の免疫システムに“予行演習”をさせるもの。でも、乳児や高齢者は免疫力が低いため、予防接種では免疫が十分につきにくいことがあります。
☆ワクチンには、世界レベルのウイルス監視と分析から予測された流行株が使用されるため、ハズレはほぼありません。でもまれに流行外のウイルスにやられることも。
☆不活化ワクチンの皮下接種では免疫が付きにくい? “予行演習”としては十分です。幼児~小学生には特におすすめ。高齢者も定期接種を活用して。
その1 乳児や高齢者は免疫力が低いため、免疫がつきにくい。
ワクチンを打っても利かなかった、という人は、実は2歳くらいまでの乳児や高齢者に多く見られます。これはワクチン自体の問題だけでなく、本人の免疫システムの問題でもあります。
ワクチンの仕組みは、弱めたウイルスやその一部をあらかじめ体の中に入れて免疫システムに予行演習をさせ、本格的な襲来に備えさせる、というもの。中学生くらいになれば免疫システムが完成するため、この狙いが上手く機能して、効率よく外敵の特徴を的確かつ長期的に覚えておくことができます。
ところが、2歳より手前の乳幼児はまだ免疫システムが未完成だったり、あるいは高齢者では徐々に衰えてきてしまっていたりして、目論見通りにいかないことも多いのです。
特に子供の場合、免疫システムの完成には個人差もありますから、小学生までは念のため2回接種が推奨されてきました。しかし近年の調査から、小学生でも昨年までに2回以上、インフルワクチンを接種したことがある場合は、今シーズンは1回接種でもよいと考えらえるようになっています(詳しくはこちら)。
その2 たまたま「流行と違う株」のウイルスにやられた?
インフルエンザウイルスに、AやBなどの「型」があることは有名ですが、さらに詳細に分類した「株」があること、聞いたことがあるでしょうか?
免疫システムは、ウイルスの表面にある「HA」という突起物の構造を読み取り、外敵を判断し記憶しています。このHAの構造のバリエーションで分類したのが「株」です。
問題は、HAの設計図である遺伝子が、頻繁に突然変異を起こしてしまうこと。HAの構造が次々に変化してしまうのです。その結果、過去の感染やワクチン接種で獲得された免疫では、十分に対応できなくなってしまいます。
こうしてインフルエンザでは、先シーズンまでに作られた免疫から逃れた変異ウイルスが次々に現れ、流行を起こします。そのため1回のワクチン接種で一生使える免疫が得られるわけではなく、毎年ワクチン接種が必要なのです。
といっても、ワクチンでカバーできる株が流行と違っていたら意味ないでしょ、と思いますよね。
たしかにその通りです。ただ、現在のインフルワクチンは、A型の2種類の株、B型も2種類の株、計4種類の株に対応できるよう作られています(昨シーズンからBも1種類増えて2種類に)。しかも、どの株が流行るかは、WHOを中心とした世界レベルでのウイルス監視活動に基づき、予想が行われます。そのため「流行株の予想が外れてワクチンが効かなかった」という事態はほとんど起こっていません。
(写真:大阪大学微生物病研究所)
ただし、流行している(=通常はワクチンに含まれる)以外のインフル株に感染することも、ないとは言えません。
その3 不活化ワクチンの皮下接種では、免疫がつきにくい?
一般に不活化ワクチンで得られた免疫は、時間とともに弱まっていきます。現在のインフルエンザワクチンの場合、効果の持続期間は3カ月程度と短いため、毎年シーズン前に接種する必要があります。
また、今のところインフルワクチンは皮下接種されています。実は、不活化ワクチンの皮下接種では、インフル感染の予防や回復に関わる一部の免疫機能が誘導されないことが分かっています。
しかし、不活化ワクチンの皮下接種であっても、“予行演習”としての機能は十分。インフルエンザのウイルスを記憶し攻撃に備える(=「抗体」を産生する)ための刺激となります。持病などがあって高リスクの人々に対する効果は明らかに認められていますし、インフルエンザ脳炎・脳症の発生を抑える効果は期待できます。
小学生には特にお勧めできます。去年打っていれば1回でもOK!
そんなこんなで、米国CDC(疾病管理センター)の予防接種諮問委員会は、インフルエンザの不活化ワクチンの有効性(ワクチン接種を受けずに発症した人の何%が、接種を受けていれば発症を免れたか)を以下のように発表しています。
●65歳未満の健常者:発症が70~90%減
●65歳以上の一般高齢者:肺炎やインフルエンザによる入院が30~70%減
●老人施設の入居者:発症が30~40%減、肺炎やインフルエンザによる入院が50~60%減、死亡リスクが80%減
65歳以上の高齢者は定期接種化されて助成が出ますから、しっかり受けておいて損はなさそうです。
また、2015年8月に慶應義塾大学他の研究チームが発表した論文によれば、子供の不活化インフルワクチンの有効性は、以下の通りです。
●A型:1~2歳は72%減、3~5歳は73%減、6~12歳は58%減
●A型のうちH1N1株:1~2歳は67%減、3~5歳で84%減、6~12歳90%減
●B型:1~2歳は41%減、3~5歳は44%減、6~12歳は30%減
B型の数字が低いものの、重症化しやすいA型への効果は相当なものです。これを踏まえると、幼児や小学生は特に接種をお勧めします。また予防接種を受けられない新生児・乳児や、高齢者のいるご家庭では、全員が受けることが大事です。
流行のピークは毎年12~1月。備えておきたいなら、今月~11月までに受けるといいでしょう。自宅に問診票などが送られてくるわけではないので、かかりつけの医療機関に相談してください。市区町村によっては助成が出るところもあるようです。
ナビタスクリニックでもワクチン接種に多くの方が受診されています。お気軽にお問い合わせください。
・ナビタスクリニック立川 042-521-5334
・ナビタスクリニック川崎 044-230-0580
・ナビタスクリニック新宿 03-5361-8383
ナビタスクリニック川崎 院長 河野 一樹