日中の気温は上がるものの、朝晩は涼しくなってきました。そうなると、だんだんに風邪をひき始める人が増えてきます。でも、風邪を治す薬はないんです。では、どうしたらいい?
【まとめ】
☆日本呼吸器学会では「かぜ症候群」として定義される風邪。原因は不明なまま、自然に治ってしまうことも。8~9割はウイルス性。
☆特効薬はない。風邪薬では治らない。ではなぜ風邪薬を飲むの? 風邪薬の正体は?
☆風邪を早く治すにも、予防するにも、感染と発症のしくみをざっくり知っておこう。ポイントはいかに免疫細胞を元気づけるか、です。
そもそも風邪って何?
一般的には、熱があって、咳が出る、のどが痛い、鼻水、頭が痛い、たんが出る、だるい、といった症状がある時、「風邪を引いた」と言いますね。日本呼吸器学会では、「かぜ症候群」として、病原体の感染によって鼻からのど、さらには気管、気管支、肺にまで、急性の炎症による症状を起こす疾患と定義しています。
なお、「お腹の風邪」と言われるのは、感染性胃腸炎。いわゆる風邪とは別です。普通の風邪では、「気持ち悪い」「吐き気がする」といった症状はあまり見られない、ということですね。
さて、お気づきの通り風邪は「症候群」とされています。症候群とは、原因不明ながら共通の病気の特徴(自他覚症状や検査結果など)を示す患者が多い場合に、そのような症状の集まりに名をつけたもの。実は、原因となる病原体に色々あり過ぎる上、診断時にわざわざ区別されないことは多いのです。
もちろん、きちんと調べれば原因が分かるものもあります。風邪の8~9割はウイルス性。最も一般的で年中検出されるのが、ライノウイルス。肺炎を引き起こすRSウイルスやおなじみインフルエンザウイルスも、広い意味では風邪に当てはまります。
それでも、インフルエンザなど一部を除き多くの場合に区別しないのは、いずれにしても特効薬がなく、症状が似たり寄ったりで、対処法も同じだから。わざわざ検査する意味がないのです。
じゃあ、風邪薬って何をしてくれるの?
風邪には特効薬がない、というのは、つまり風邪薬(総合感冒薬)では治らない、ということ。風邪薬は風邪のウイルスを殺してくれるわけではないのです。
では風邪薬は何のために飲むのでしょうか?
風邪薬は、頭痛や鼻の症状、のどの症状といった、風邪の典型的な症状を和らげる複数の薬効成分がブレンドされたもの。そうして体の不快感を減らして安眠を促し、体力の回復を助けることで、免疫力がウイルスに勝つのをサポートする、という考え方です。
ですから、風邪は風邪薬を飲まなくても、普通は数日で治ります。治らなければ、溶連菌などの細菌感染症を始め、別の病気を疑ってみたほうが良いかもしれません。細菌感染症なら抗生剤を服用して治します。言い換えれば、ただの風邪なら抗生剤は必要ありません。
また、風邪薬を飲んでちょっと体が楽になったからと、とたんに無理をしてしまうのも大きな間違い。それこそ免疫が疲弊して、ずるずる治りが遅くなるかもしれません。あるいは別の、もっと手ごわい病原体の侵入を許すことになりかねません。
じゃあ、風邪はどうやって治る? どうしたら早く治せる?
風邪を治すには、特効薬がない以上、やはり免疫細胞に頑張ってもらうしかありません。
免疫細胞が活発に動くには、温度が大事。マクロファージという外敵発見役の免疫細胞は、38.5℃で、先制攻撃を仕掛けるNK細胞は37℃前後で、本格的な攻撃を行うT細胞は38~40℃でそれぞれ最も強く働きます。
風邪をひくと熱が出ますが、これは実は体が免疫細胞を活性化させるための仕組みなのです。ウイルスの毒によって不本意に熱が上がってしまっているとか、熱に弱いウイルスを倒すため、というわけではないようです(ウイルスが弱るには70℃以上の温度が必要です)。
かといって、熱いお風呂に入ったり、無理に厚着をするのは逆効果。体には、体内を一定に保とうとする自然の仕組み(ホメオスタシス)が備わっているので、外から熱を掛け過ぎてもそれに抗おうとして、かえって負担になるからです。ますます体力を消耗してしまいます。
ちなみに、「汗をかけば治る」と思っている人がいますが、それは間違い。治り始めたから汗をかいている、つまり、外敵との闘いにめどがついたので汗をかいて熱を放出し、体温をさげているのです。
さて、だったら、風邪を早く治すために積極的に何をしたらよいのでしょう?
まずは体力回復。消化の良いものを食べ、ゆっくり休むことです。その際、水分補給が非常に大事。体内の水分が足りなくなると、免疫力が落ちます。症状が重いと脱水に気づかないこともありますから、十分に摂るよう心がけましょう。
また、「あれ、風邪かな?」と思うくらいのごくごく初期なら、軽く体を動かすことも、免疫細胞の活性化につながって風邪の悪化を防ぐことが、研究から明らかになっています。横になって寝ていることだけが大事なわけではないのです。
感染の仕組みを知って予防しよう。
もちろん、ひいてしまった風邪を治すより、予防する方がずっとおトクです。インフルエンザと同様、どんな風邪も、患者のツバが口や鼻などの粘膜に付くと、そこから侵入して感染します。粘膜は普通の皮膚と違って、体の内外との物質のやり取りをしやすく出来ている部分なので、バリア機能も低いのです。
ただし、原因病原体が体に入ってきても、直ちに、必ず発症するわけではありません。
先ほどから何度も登場しているように、私たちの体には免疫システムが備わっていて、24時間体制でウイルスなど外敵の侵入を警戒してパトロールしています。しかし、体力が落ちていたり、外敵があまりに多く侵入してきたり、あるいは強敵だったりすると、免疫細胞の対応が追い付かないことも。体内でウイルスが増え過ぎれば、発症します。
ですから、風邪予防のためにも、体力をつけ、ストレスを減らすことは大事。さらに、粘膜をできるだけ覆うこと。代表例はマスクです。覆うのには2つの意味があります。ウイルスが一度にたくさん粘膜に付着しないよう遮るのと、保湿によって粘膜に生えている繊毛(細かい毛のようなもの)の動きをスムーズにし、外敵の排除を助けることです。
ウイルスがついたものを触った手で、自分の口や鼻、目などに触れてもいけません。だから手洗いは非常に大事なんですね!(手洗いについてはこちらもご覧ください)